令和8年度の診療報酬改定において、急性期医療を担う病院の評価体系が大きな転換点を迎えます。これまで急性期病院の評価といえば、看護師の配置基準(7:1や10:1)や「重症度、医療・看護必要度」といった構造やプロセスが中心的な指標でした。しかし、新たな改定では「急性期病院一般入院基本料A・B」が新設され、病院が実際に地域で果たしている「実績」を直接問う、極めて戦略的な仕組みへと進化します。
動画もぜひご覧ください。
——————————————————————————–
Contents
1. 「看護師の数」から「医療の実績」へのパラダイムシフト
今回の改定の核心は、評価の「ものさし」が構造(ストラクチャー)から機能(アウトカム・プロセス)へとシフトすることにあります。従来の評価は、手厚い看護体制を整えているかどうかや重症度医療看護必要度が主眼でしたが、新設される入院料A・Bでは、具体的な救急搬送件数や手術件数といった「実績」が、施設基準の柱として据えられました。
この変化は、厚生労働省が進める「病院の機能分化」をより一段高いレベルで強制するものです。単に重症患者をケアするだけでなく、地域における「救急と手術のセンター」としての役割を果たしているかどうかが、病院の収益性を左右する時代が到来したのです。
2. 最上位「急性期病院A」への極めて高いハードルと「1200件の壁」
拠点的な急性期病院を対象とした「急性期病院一般入院料A」は、現行の急性期一般入院料1(7:1配置、平均在院日数16日以内)を維持した上で、さらに厳しい実績要件が課されます。
- 救急搬送件数: 年間2,000件以上
- 全身麻酔手術件数: 年間1,200件以上
戦略的な視点で見れば、特に「全身麻酔1,200件」という数字が多くの病院にとって大きな壁となりそうです。救急搬送は多いが外科機能が弱い、あるいはその逆といった病院は、この最上位ランクから振るい落とされることになります。これは、国が「救急と手術の両輪を回せる拠点」を明確に選別し、リソースを集中させる「選択と集中」のメッセージに他ならないのでしょう。入院料Aは現行の「1」よりも高い点数設定が予想されるため、ここをクリアできるかどうかが経営上の大きな分岐点となります。
3. 「急性期病院B」の要件と地域における立ち位置
一方、地域の中核的な役割を担う病院を対象とした「急性期病院一般入院料B」も新設されます。こちらは主に現行の10:1病院(入院料2〜4相当)からの移行が想定されており、以下のいずれか(OR条件)を満たす必要があります。
- 救急搬送件数: 年間1,500件以上
- 救急搬送500件以上 かつ 全身麻酔手術500件以上
- 二次医療圏内で救急搬送件数が最大(かつ年間1,000件以上、または離島等の特定地域)
入院料Bは、現行の入院料2よりも高い収益が期待できる「加点枠」となります。大規模ではなくとも、地域で確実に救急や手術を支えている病院を正当に評価しようという意図が読み取れます。
4. DPC指定が「必須条件」に格上げ
現行の急性期一般入院料1〜6では、DPC(診断群分類別包括評価)制度への参加は必須ではありませんでした。しかし、新設されるA・Bにおいては「DPC指定病院等であること」が施設基準として明記されました。
これは、急性期医療の質をデータで管理・公開していることが、「急性期病院」を名乗るためのパスポートになったことを意味します。データに基づいた経営管理(DPCデータの分析・活用)ができない病院は、制度設計上、急性期の土俵から退場を余儀なくされる厳しい再編が始まっています。
5. 経営戦略を左右する「併設不可」の制約
今回の改定で最も経営陣を悩ませるのが、病棟構成の制限です。
- 入院料Aを届け出る場合: 「地域包括医療病棟」および「地域包括ケア病棟」との併設が不可。
- 入院料Bを届け出る場合: 主に「地域包括医療病棟」との併設が不可。
特に最上位の「A」を目指す場合、サブアキュート・ポストアキュート機能を自院で抱え持つ「多機能型経営」を捨てる必要があります。高度急性期に特化して回転率を上げるのか、それともケア機能も維持して地域密着を貫くのか。病院のアイデンティティを問う「究極の二者択一」が迫られています。
6. 「看護管理者の質」が施設基準に食い込む
ソフト面での注目点は、看護管理者の配置要件です。入院料A・Bでは、以下の要件を満たす管理者の配置が「望ましい」とされました。
- 実務経験: 看護師長等として5年以上
- 所定の研修: 180時間以上の研修(国や医療団体主催、講義内容1〜4のカテゴリーを網羅するもの)を修了
現在は「努力義務」に近い表現ですが、過去の改定パターンからすれば、将来的な「加算化」や「必須化」への布石であることは明白です。180時間の研修受講には相応の準備期間が必要であり、今のうちから次世代の看護リーダーを育成する教育投資を行っているかどうかが、数年後の病院の格付けに影響します。
——————————————————————————–
結論:令和8年に向けた「病院のアイデンティティ」の再定義
令和8年度改定は、病院に対して「実績で語れ」という強い規律を求めています。
「急性期病院A・B」の新設は、単なる上位互換の点数ではありません。自院が地域において、圧倒的な実績を武器にする「高度急性期拠点」となるのか、それとも柔軟な機能を持つ「地域密着型」として生き残るのか、その旗印を鮮明にすることを求めています。
経営陣に求められる次の一手は、過去12ヶ月の実績データ(救急件数・全麻件数・平均在院日数)を、新基準にあてはめて徹底的にシミュレーションすることです。
あなたの病院は、実績を武器に「A・B」の看板を掲げますか?それとも、多機能な地域ケアの道を選びますか?今、その戦略的決断が問われています。

