はじめに:改定率とともに示された物価上昇対応案

令和8年度 診療報酬の改定率が示され、その中で「初・再診料と入院における物価上昇対応について」という案が提示されました。

昨今の物価上昇は、光熱費、食材費、医療材料費、人件費など、あらゆるコストに影響を及ぼしています。病院経営にとって、この物価上昇分をどのように診療報酬で補填するかは極めて重要な論点です。

本記事では、今回の改定案の意図や懸念点、そして現場に及ぼす影響について深く掘り下げていきたいと思います。

 

動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。

【出典】

・厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(令和7年12月24日 大臣折衝事項)」

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001629046.pdf

・厚生労働省「診療報酬改定について(令和7年12月24日の予算大臣折衝を踏まえて)」

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001623410.pdf

 

まず押さえておきたいのは、今回の物価上昇対応は「外来」と「入院」の二軸で設計されているという点です。ただし、病院経営という観点で見ると、実質的な主軸は入院に置かれています。

入院における物価上昇対応の二段階設計

令和6年度以降の経営悪化への対応

まず、入院料の構造についてです。

スライドでは、既存の入院基本料の上に「②③の入院分」と記載された紫色の部分が示されています。この部分は、令和6年度の診療報酬改定以降の経営環境悪化への対応分として、入院基本料の一部に上乗せされる方向とされています。

つまり、これまでの経営悪化に対する一定の手当てがまず行われるという位置づけです。

 

令和8・9年度の物価上昇評価の考え方

その上で、令和8年度および令和9年度の物価上昇分については、既存の入院基本料とは別枠で「物価上昇に関する評価」を設定する方向が示されています。

構造としては、入院基本料の中に吸収するのではなく、別枠で上乗せする設計です。物価上昇分を独立させることで、将来的な調整や検証がしやすい形にしていると考えられます。

重要なのは、これが一度に実施されるのではなく、令和8年度と令和9年度の2段階で行われる点です。

令和9年度が令和8年度の2倍とされる理由

制度設計上、令和9年度の物価上昇評価は、令和8年度の2倍となることが想定されています。

つまり、令和8年度でまず第一段階の対応を行い、その実績や経営状況を踏まえて、令和9年度で評価を厚くするという考え方です。

なぜ最初から平均的な水準にしないのかという疑問も生じますが、制度上は令和8年度の状況を調査・分析した上で、翌年度に反映するという段階的な設計になっています。

この点は、実態を踏まえた調整を可能にする一方で、初年度は抑制的な水準からのスタートになるという特徴があります。

経済動向に応じた調整規定について

さらに、制度設計の中には、実際の経済や物価動向が令和8年度時点の見通しから大きく変動した場合には、加減算を含めた調整を行うという規定が設けられています。

経営状況に支障が生じた場合には、令和9年度の予算編成時に調整を行う余地が残されています。

つまり、固定的な設計ではなく、一定の柔軟性を持たせた制度となっています。ただし、その具体的な運用については、今後の詳細な通知を待つ必要があります。

外来における物価上昇対応の設計

初・再診料の取り扱い

次に外来についてです。

外来における物価上昇分の評価は、初・再診時の評価を無床診療所と同一水準で設計する方向が示されています。

しかし、病院と無床診療所ではコスト構造が異なるため、無床診療所の基準で算出した評価では、病院の外来部門における物価上昇分を十分にカバーできない可能性があると想定されています。

不足分を入院で補うという構造

その不足分については、入院時の評価で補正することが検討されています。

つまり、外来で生じる物価上昇分の不足分を、入院評価に含める形で病院全体として対応する構造です。

制度としては、病院全体の収支バランスの中で調整するという考え方に基づいています。

病院の経営構造による影響の違い

この設計により、病院の経営構造によって影響が異なる可能性があります。

入院患者数が一定程度ある病院では、入院評価での補正が機能する可能性があります。一方で、外来比率が高く入院患者数が少ない病院では、外来不足分の補填が十分に行われない可能性も考えられます。

制度の詳細が示された段階で、自院の患者構成や収益構造に照らして、どのような影響が出るかを精査する必要があります。

現時点で押さえておくべきポイント

現時点で整理できるポイントは次の通りです。

・物価上昇対応は入院と外来の二軸

・主軸は入院評価

・令和8年度と令和9年度の二段階設計

・令和9年度は令和8年度の2倍を想定

・外来の不足分は入院評価で補正

・経済動向に応じた調整規定あり

詳細な点数や算定要件は、今後1〜2か月のうちに明らかになる見込みです。

現段階では、まずこの「入院主軸・二段階積み増し」という制度の骨格を正確に理解しておくことが重要です。

具体的な内容が示され次第、改めて実務的な視点から分析していきたいと思います。