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はじめに
本記事では、一般病棟用「重症度・医療・看護必要度」における内科系症例の評価が不利になっている現状と、令和8年度改定に向けた見直しの最新情報をお伝えします。令和6年度改定で「救急搬送後の入院等」の評価期間が5日→2日に短縮され、入院初期の医療資源投入量が評価に反映されにくくなりました。この影響が内科系で大きく、看護必要度の該当割合が低下、経営や人員配置に直結する課題となっています。
動画も配信していますので、是非、ご覧ください。
【出典】中央社会保険医療協議会 (令和7年度第11回) 入院・外来医療等の調査・評価分科会 令和7年9月11日 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001562994.pdf
内科系症例は、なぜ「評価されにくい」のか
外科系は手術や侵襲度の高い処置がC項目で評価されやすく、A項目でもモニタリングや処置が積み上がりやすい構造です。一方、内科系は「手術なし」「高齢者救急」「高齢でADL低下」など、ケア負担は高いのにC項目が0点になりやすく、A項目も点が伸びにくい傾向にあります。さらに救急・緊急の評価日数短縮で入院3日目以降の負荷が拾われず、構造的に不利が生じています。しかし今、内科系症例を多く受け入れている病棟ほど、「現場は忙しいのに、制度上は評価されていない」という矛盾を抱えています。
日本病院会が「評価基準の見直し」を要望
こうした内科系症例が不利に扱われる現状を受け、ついに日本病院会が要望書を提出しました。令和8年度診療報酬改定に向けて、日本病院会は「重症度、医療・看護必要度Ⅱ」の評価基準について、以下の点を問題として指摘しています。
内科系病院ほど「経営に深刻な影響」が出ている
要望書では、まずこの点が明確に示されています。
内科系患者の割合が高い医療機関においては、現行の評価基準では看護必要度を維持できず、経営に深刻な影響を及ぼしている。
A項目(医療処置・管理)
A項目は、主にモニタリング及び処置等の医療的な介入の強さを評価する項目です。外科系では、手術や術後管理がそのままA項目の得点に反映される設計となっている一方、内科系症例では、点数に結びつきにくい構造になっています。
C項目(手術後の患者評価)
C項目は、ほぼ「手術ありき」の項目です。そのため、外科系症例:C項目が評価に大きく貢献する一方、内科系症例:制度上、ほとんど関与できないという決定的な不利を抱えています。
実データでも、
C項目1点以上の該当割合は、外科系:38.5%、内科系:1.3%と、圧倒的な差があります。

内科系症例を正しく評価するために検討されている新しい指標
これまで見てきた通り、重症度・医療・看護必要度は、制度設計上「外科系症例が有利」「内科系症例が不利」になりやすい構造を持っていました。この状況を受け、令和8年度診療報酬改定に向けて、内科系症例を適切に評価するための新たな評価指標の検討が本格化しています。
1.A項目・C項目への新たな評価項目の追加
追加が検討されている医療行為の例

新指標導入の効果シミュレーション結果
検討段階の試算では、この新指標を導入した場合、
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手術なし症例全体で該当患者割合が約+3.5ポイントの改善
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Dランクの疾患では約+4.2ポイント、Eランクでは約+7.3ポイント
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高い負荷度ランクにおいて該当患者割合が改善
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手術なし症例と手術あり症例の該当患者割合の差も約1.5ポイント縮減
という結果が示されています。
これは、
「内科は評価されない」という構造が、数値上でも是正される可能性
を示しています。
2.救急搬送・緊急入院の評価見直し
現状では、救急搬送または緊急入院患者の評価期間が令和6年度の診療報酬改定で「入院後2日間」に短縮されたことで、内科系が特に不利となりました。なぜなら、救急搬送患者の約8割が内科系患者だからです。

そのため、「評価期間を元の5日間に戻す」「または救急搬送や緊急入院が多い病棟には、基準該当率に一定の上乗せを行う」といったアイデアが検討されています。後者の案は、病棟や病院の規模・搬送件数に応じて「該当率に+◯%を加算する」という方式で、日常の集計方法を変えずに導入できる可能性があります。

データによれば、救急搬送患者の約8割、さらに緊急入院患者の約8割が内科系疾患です。つまり、救急からの流入は内科系に集中しやすい構造になっているにもかかわらず、評価期間が短縮されたことで「負担の大きい内科系が、点数では不利になる」という状況が生まれています。

こうした状況を改善するため、次期改定に向けて「評価期間を見直す」「救急搬送件数に応じて基準該当率を上乗せする」といった議論が始まっています。特に後者の案は、病棟や病院の規模に応じて搬送件数を係数に反映し、あらかじめ一定の割合を加算する仕組みです。これにより、現場の記録業務が増えず、評価の不公平さだけを是正する可能性があります。
1床当たり救急搬送件数と内科系症例割合の関係
本グラフは、急性期一般入院料1算定病床における「1床当たりの救急搬送件数」と「内科系症例の割合」の関係を示しています。横軸は1床あたりの救急搬送件数で、右に行くほど救急受入が多い病院を表しています。縦軸は症例構成の割合で、緑色が内科系症例、オレンジ色が外科系症例を示しています。

ご覧の通り、救急搬送件数が多い病院ほど、内科系症例の割合が高い病院が多いことがわかります。
つまり、
「救急を多く受け入れている病院ほど、内科系の重症・急性期症例を多く診ている」
という実態が、データ上も明確に示されています。したがって、救急医療の実態に即した評価制度にするためには、モニタリング&処置等や、手術のの評価軸中心ではなく、救急受入実績を正しく評価する仕組みが必要である、ということを示唆しています。
これらのデータを通して、外科系症例にとって有利に設計されている側面があることが改めて示されました。外科系症例は「手術」という明確なイベントがあり、A項目やC項目に該当しやすい構造になっていますが、救急件数が多い病院ほど、内科系症例を多く受け入れていることもわかりました。救急搬送は、昨今、高齢者救急が増加していることがデータで示されており、「軽症」として判断されるケースが多いことが指摘されています。しかし、高齢者救急の患者さんは、複数の疾患を抱え、急変リスクが高く、認知症があり常に目を配るような患者さんも多く,介護度が高い傾向があるにも関わらず、現状の評価基準では看護必要度の該当にならない患者さんが多いのです。
結果、現場の実感と、制度評価との間には大きなズレが存在しています。地域医療の「最後の砦」になっている病院ほど、評価制度の中では報われにくいという、大きな矛盾を生んでいます。地域の高齢者を支え、在宅と病院をつなぎ、救急を断らずに受け入れ、重症化を防ぎ、生活を支えている病院が評価されにくい・・・次回の診療報酬改定では、そこが大きく改善されることに大きな期待が寄せられます。
さいごに
今回ご紹介したように、重症度・医療・看護必要度の評価構造は、地域の高齢者を支える「高齢者救急」や内科系医療が、正しく評価される仕組みにはなっていません。救急車を多く受け入れている病院ほど内科系症例の割合が高い実態が明らかになっています。救急を断らず受け入れ、高齢者や多疾患患者を多く抱え、介護度の高い患者を積極的に診ている――にもかかわらず、
・基準上は「軽症扱い」にされる
・看護必要度が上がらない
・結果として収益につながらない
という矛盾を、抱えています。日本病院会が評価基準の見直しを正式に要望し、令和8年度改定に向けた制度改革が本格化していることには、大きな期待がよせられます。

