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はじめに:本記事の議論の全体像
現在、令和8年度の診療報酬改定に向けた議論が進んでおります。
本記事では、中医協が公表している「看護職員等の働き方に係る課題と論点」から、個人的にビッグニュースだと思える2点をピックアップして共有したいと思います。
一つは「看護管理能力の向上」が診療報酬の議論のテーブルに乗ったこと、そしてもう一つは、皆さんが日々頭を悩ませている「様式9」の簡素化・明確化に向けた動きです。
これらの内容は、いずれも今後の病院経営や看護部門の運営に大きく関わるテーマであり、非常に注目している論点です。
動画も配信していますので、よろしければご覧ください。
【出典】 出典情報:https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001590741.pdf
今回の議論について、検討会の資料に示された内容をそのまま抜粋すると、以下のようになります。
| 医療機関が医療の提供、経営、地域連携等を総合的に行っていくに当たって、看護業務の質の高いマネジメントが重要であることを踏まえ、看護の管理能力を向上する取り組みを促進することについてどのように考えるか。 |
| 看護要因の必要数と配置数を算出するための「様式9」について、病棟内での短時間のオンライン研修受講や、通常の医療で必要な病棟外での業務等について、入院患者の看護に影響のない範囲で勤務時間に算入できるよう追加するなど、わかりやすく整理し明確化することについてどう考えるか。 |
簡単に言えば、看護管理の重要性をどう評価するのか、そして様式9の管理が非常に煩雑化している現状を、より分かりやすく整理できないか、という議論が始まったということになります。
看護管理の役割が診療報酬上の議論に乗った意味
まず1点目として、看護管理の役割について診療報酬上の議論が始まったという点についてです。
これは非常に良いことだと感じましたし、率直に嬉しく思いました。
これまで、看護師の皆さんの評価といえば「7対1配置」といった人員数や、夜勤の回数、あるいは「重症度、医療・看護必要度」といった項目が中心でした。
しかし今、医療機関が質の高い医療を提供し、経営を安定させ、地域連携を総合的に進めていく上で、看護管理者が「看護業務の質をいかにマネジメントするか」が極めて重要であるという認識が、国(中医協)の議論として明確に示されたのです。
なぜ今、看護管理者がこれほどまでに注目されているのでしょうか。
今後、少子化の進行や生産年齢人口の減少が見込まれる中で、病院経営を取り巻く環境はますます厳しくなっていきます。現場では、深刻な看護師不足と離職率の上昇、医師の働き方改革に伴うタスクシフト推進等といった課題もあります。
そうした中で、病院の管理運営と看護職員のマネジメントを一体的に行う必要性が高まり、看護管理の重要性がより強く認識され始めています。
現場をまとめ上げ、スタッフの働きやすさを守りながら、医療の質を担保する。この難易度の高い役割を果たす看護管理者の存在が、病院の存続に直結する時代になったと言えます。
看護管理能力をどう高め、どう評価するか
こちらは、マネジメントラダー等を踏まえまして、看護管理者に求められる能力等を示したものです。
看護管理能力の向上といえば、日本看護協会などが実施している「看護管理職の教育育成制度」の活用です。
皆さんご存知の、ファーストレベル、セカンドレベル、サードレベルといった認定看護管理者の教育課程ですね。

多くの医療機関では、主任や師長になるためにファーストレベルやセカンドレベルの修了を要件としている場合もあり、サードレベルを修了すると認定看護管理者となります。
これらは、看護管理能力を身につけるためのプログラムであり、その受講の重要性はさらに増していくと感じています。
今後、これらの受講を促進するために、以下のような評価のあり方が検討されています。
- 施設基準や加算への組み込み: 認定看護管理者を配置している病院に対して、診療報酬上の評価をプラスする。
- 育成体制の評価: 管理者向けの体系的な研修(マネジメント、労務管理など)の受講を要件化する。
評価の在り方に対して感じる問題意識
一方で、ファースト、セカンド、サードレベルを受講しているから良いのか、という点については検討の余地があるかと思います。
個人的には、施設基準や加算の要件として認定看護管理者の配置が評価される場合、「結局はストラクチャー評価(体制評価)に戻ってしまうのではないか」という点を懸念しています。
「特定の研修を受けた人が何人いれば何点」という評価は、わかりやすい一方で、病院にとっては人員のやりくりや受講費用の負担といった新たなハードルになりかねません。点数を取るために無理をして受講させる、といった本末転倒な事態は避けるべきだと私は考えます。
むしろ、その先にある「マネジメントのプロセスやアウトカム」が評価されるべきではないでしょうか。例えば、その管理者が統括する病棟で離職率が下がった、有給取得率が上がった、あるいはインシデントが適切に管理されているといった、実質的な「組織の健康状態」こそが評価の本質であると信じたいところです。
看護管理者の管理能力向上に向けた取り組み自体が議論の俎上に載ったことは非常に意義深い一方で、それをどのように評価していくのかについては、今後しっかりと注目していきたいところです。
入院基本料等に関する様式9の複雑化という課題
さて、2つ目のテーマですが、皆さんの事務負担の代名詞とも言える「様式9」です。
様式9の管理は非常に煩雑で、看護部長をはじめとする多くの方々が膨大な時間を費やしています。

今回の議論では、この様式9を「わかりやすく整理し明確化する」という方向性が示されました。
現在、看護要員の数については、「病棟において実際に入院患者の看護にあたっている看護要員の数」を算入できることになっています。
一方で、算入できる例と、病棟時間から除外しなければならない例が細かく規定されており、通知や解釈が長年にわたって積み重なった結果、情報が錯綜してしまっています。

こうした状況を踏まえると、業務負担軽減や管理のしやすさという観点からも、様式9の整理や明確化が進むことは非常に望ましいと感じています。
看護管理者や関係者が、本来注力すべき業務に集中できる環境を整えるという意味でも、今回の議論が前向きに進んでいくことを期待したいところです。
本日のまとめと今後への注目点
本記事の内容を改めて整理すると、
・看護業務の質の高いマネジメントの重要性を踏まえ、看護管理能力向上の取り組みを推進すること
・看護要因の算出に関わる様式9を、より分かりやすく整理し明確化すること
この2点が、診療報酬上の議論としてテーブルに載った、という状況です。
個人的には、まずこのテーマが正式に議論に乗ったという点自体が、非常に大きなニュースだったと感じています。
今回の議論は、看護管理者の皆さんがこれまで「当たり前」に行ってきた努力に、ようやく光が当たろうとしているプロセスだと言えます。 「経営と看護マネジメントは一体である」という考え方が国のレベルで認められつつあることは、非常に喜ばしいことです。
ただ、私はこれが単なる「点数稼ぎ」の手段に終わってほしくないと考えています。 優れた看護管理者がいて、スタッフが安心して意欲を持って働ける、その結果として、患者さんに最高のケアが届き、病院経営も健全になる、そんな「価値の循環」を正当に評価するための第一歩であってほしいと思っています。
まだ議論が始まったばかりですが、個人的には非常に注目しておりますので、新しい動きがあればまた共有させていただきます。
「様式9の管理が大変すぎる」「認定管理者の配置が要件になったらどうしよう」といった不安もあるかと思いますが、まずは「自分たちの仕事の価値が認められ始めている」とポジティブに捉えていただければと思います。
この記事の内容が、皆さんの日々の業務や組織運営の参考になれば幸いです。

