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はじめに:本日のテーマと議論の背景
本記事では、病院経営に携わる皆様にとって非常に興味深い、そして将来の経営戦略を左右するかもしれない重要なテーマについて共有させていただきます。
現在、中医協(中央社会保険医療協議会)の議論において、「病棟に多職種の人員を配置した場合、そこに対する評価を認める仕組みが考えられないか」という話題が挙がってきています。
令和8年度の診療報酬改定を見据えたこの議論、一体どのような中身になっているのか。中医協で示された資料やデータをもとに、説明してまいります。
これらはまだ議論の段階ではありますが、今のうちから情報をキャッチし、自院の体制をどう整えていくか考えるきっかけにしていただければと思います。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
【出典】厚生労働省 中央社会保険医療協議会(中医協)総会 資料「入院(その8)」(中医協 総-3、令和7年12月12日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001610163.pdf
今回の議論の2つのポイント
早速ですが、詳細に入る前に、現在どのような議論がなされているのか、その核心部分となるポイントを先にお伝えいたします。
現在、中医協の場では主に以下の2点が論点として浮上しています。
具体的には、急性期医療の拠点となる病院や、地域の救急を支える病院について、以下のような指標を含めた評価が検討されています。
- ・救急搬送件数
- ・全身麻酔の手術件数
- ・人口の少ない医療圏や離島での地域カバー機能
つまり、「看護師の数」という従来のモノサシだけでなく、「どのような専門職が病棟で協働しているか」「地域でどのような役割を果たしている病院か」という、より実態に即した評価軸を導入しようという動きがあるのです。
「10対1」が「7対1」相当に?具体的な評価のイメージ
では具体的に、これらの議論がどのような評価イメージとして描かれているのか、中医協で示されたスライドのイメージを補足しながら解説します。

現行の制度では、急性期一般入院基本料1は「7対1」配置が求められています。一方で、急性期一般入院基本料2から6については、看護職員配置が「10対1」となっています。
今回議論されている新しいイメージは、 看護配置が「10対1」の病棟であっても、そこに多職種(PT/OT/ST、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師など)を配置することによって、実質的なマンパワーやケアの質が「7対1」相当になる場合、その努力や体制を評価できないかというものです。
さらに、病院の機能に応じた評価も加わります。 例えば、急性期一般入院基本料1のような拠点的な急性期病院に関しては、現行通り看護職員配置「7対1」は原則維持しつつ、そこに加えて「病院の機能(拠点的な急性期機能)」としての評価を上乗せできないかと考えられています。
もしこれが実現すれば、看護師不足で7対1を維持するのが難しい病院にとっても、多職種の力を結集することで適切な評価を受けられる道が開けるかもしれません。これは経営戦略上、非常に大きなインパクトを持つ変更点と言えるでしょう。
病棟における看護業務の現状とタスクシフトの必要性
なぜ今、これほどまでに「多職種配置」や「タスクシフト」が叫ばれているのでしょうか。その背景には、病棟における看護師の業務負担の現状があります。
今回示された調査結果によると、病棟において看護師が費やしている業務の内訳は以下のようになっています。

診療や治療に費やす時間(ピンク色の部分)と患者のケア(青色の部分)、この2つで全体の業務時間の約半分(50%程度)に上ります。そこに多職種が病棟により多くの時間業務にあたることで、業務分担(タスクシフト・タスクシェア)が進むことが期待されています。多職種が病棟に入ることで、それぞれの専門性を発揮しながら、かつ協働することで、結果として医療の質が向上する、その体制を診療報酬上で評価しようというのが今回の議論の方向性なのです。
各専門職の病棟配置とその効果
では、実際に各専門職が病棟に配置されることで、どのような具体的な業務が行われ、どのような効果が生まれているのでしょうか。今回紹介された事例やデータを職種別に見ていきましょう。
リハビリテーション療法士(PT・OT・ST)
「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」を届け出ている病棟において、病棟専従となっている療法士の働き方が紹介されています。

彼らは、通常の「疾患別リハビリテーション」の提供に加え、その合間やそれ以外の時間を使って、以下のような業務を行っています。
・場面に応じた短時間のADL(日常生活動作)指導
・生活機能の維持向上を目的とした指導
・体重測定
・療養環境の整備
実際、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の病棟専従の療法士には、疾患別リハビリテーションの算定時間が「1日9時間未満」という制限がかけられています。そのため、算定以外の時間を活用して、リハビリ専門職の視点から患者さんの生活環境を整えたり、ADL指導を行ったりすることで、病棟チームの一員として活躍されている事例があるのです。
管理栄養士
管理栄養士については、病棟への滞在時間と業務の実施率に明確な相関関係があることがデータで示されました。

管理栄養士が就業時間の「5割以上」を病棟で従事している病院の割合は、全体の約40%(8割以上従事が青、5割〜8割が緑のグラフ)です。
一方で、病棟滞在時間が「2割未満」という病院(ピンク色のグラフ)も存在します。 この両者を比較すると、明確な差が出ています。
- ・栄養情報提供書の作成割合
- ・ミールラウンド(食事観察)の実施割合
これらの実施率は、病棟滞在時間が長い(青・緑)病院に比べて、滞在時間が短い(ピンク)病院では非常に低くなっていることが分かりました。 つまり、管理栄養士が物理的に病棟にいる時間が長ければ長いほど、患者さんの食事状況を直接確認したり、転院・退院に向けた情報連携がスムーズに行われるという実態が浮き彫りになったわけです。これは大変、患者さんにとっては質の高いサービスにつながります。
臨床検査技師
臨床検査技師の病棟配置については、特に「早朝の採血」や「検査説明」において大きな効果が期待されています。

現状の課題として、特に早朝の時間帯は、医師は外来診療の準備、看護師は朝の内服管理や食事介助などで手一杯になりがちです。その結果、検査結果の確認や報告が遅れ、患者さんへの処置が後手に回ってしまう(遅延してしまう)リスクがあります。
ここに臨床検査技師が介入することで、以下のようなメリットが生まれます。
- ・オンタイムでの検査実施: 必要な生理検査や採血を適切なタイミングで実施できる。
- ・インシデントの減少: 専門職による採血・検体管理でミスを減らす。
- ・医師の具体的指示による検査結果のモニタリング: 処置の遅延防止につながる。
- ・タスクシェアによる看護師の負担軽減: 看護師が本来の観察やケアに専念できる。
- ・患者満足度やセルフケア意識の向上: 専門知識を持つ技師が検査説明を行うことで、患者さんの理解が深まる。
調査でも、看護師の負担軽減策として「臨床検査技師による採血・検査説明」への期待が高い割合を占めていることが分かっています。
個人的にもとても良い協働だと思います。ぜひ進むと良いですよね。
薬剤師
薬剤師の方々も、病棟での役割は非常に重要といえます。

- ・持参薬(残薬)の確認
- ・処方依頼
- ・薬剤のセット(配薬)
- ・薬剤の準備やミキシング(混注)
これらに関与することで、医療安全の確保はもちろん、看護師の業務負担を劇的に減らすことができる可能性があります。薬剤師の方はすでに病棟薬剤業務実施加算がありますので、改定でどのように薬剤師の方が病棟配置でさらに評価されるのか、注目ですね。
ただ、内服薬のセットなどについては、看護部と薬剤部の間で業務の線引きが難しく、タスクシェアが進みにくい現状があることも現場の声として挙げられています。ここは個人的にもずっと気になっているところです。ただ配置するだけでなく、診療報酬で業務の分担を明確化してくれれば良いのになと思っています。
まとめと今後の展望
本記事では、中医協で議論されている「多職種病棟配置」と「病院機能評価」について、最新の情報を共有させていただきました。
改めて、今回の議論のポイントを整理します。
これらが実現すれば、従来の「看護師の数合わせ」のような経営から脱却し、各専門職がそれぞれの強みを活かして病棟運営に参画する、新しい病院の形が評価されることになります。
今はまだ議論の段階ですが、年が明けて1月、2月となってくれば、令和8年度の診療報酬改定に向けた具体的な情報が一気に出てくるはずです。 今回のような議論が実際に改定内容に盛り込まれるとなれば、非常に興味深く、また病院経営にとってインパクトのある改正になることは間違いありません。
特に、「人材確保」が難しい時代だからこそ、今いる多職種スタッフがどのように協働し、チームとして機能させるかが、今後の病院経営の生命線になります。栄養士や検査技師、リハビリスタッフの採用・配置戦略も含め、今のうちからシミュレーションを始めておくことをお勧めします。
私としても、この「多職種配置による10対1病棟の評価アップ」という視点は非常に面白いと感じましたし、今後の動向を注視していきたいと思っています。
本記事の内容が少しでも参考になりましたら幸いです。

