1. 導入:病院経営を揺るがす「地域包括医療病棟」の再定義

令和8年度の診療報酬改定において、地域包括医療病棟を運用する病院、あるいは今後、転換を検討していく病院にとって重要な改定が入ってきます。これまで「1つの入院料」としてシンプルに設計されていたこの病棟が、なんと一気に「6つの区分」へと細分化される方針が示されました。

「なぜこれほどまでに複雑化するのか?」という疑問を抱く経営層も多いでしょう。しかし、この背景には医療資源の投入量に基づいた「正当な評価」へのパラダイムシフトがあります。本記事では、この細分化が自院の経営にどのようなインパクトを与えるのか、専門的な視点からその核心を解説します。

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2. 衝撃の事実:単なる値上げではない「6区分」への細分化

今回の改定は、単に点数が改定するだけのものではありません。構造そのものが「二階建て」へと根本から作り替えられます。

具体的には、病院単位で届け出る「地域包括医療病棟入院料1または2」と、患者ごとに決定される「算定区分(1・2・3/イ・ロ・ハ)」の組み合わせにより、計6つの区分が誕生します。

ここで重要なのは、「病棟に対して一律の点数がつく」というこれまでの常識が崩れ、「患者の入院経路や処置内容によって算定する点数が変わる」仕組みへ移行する点です。分析を行う上では、この「個別最適化」への対応が成否を分けることになります。

3. 【病院単位の区分】「急性期病棟の有無」の決断が迫られる

まず、病院が「地域包括医療病棟入院料1」と「2」のどちらを届け出ることができるかは、病院全体の病棟構成、すなわち「入院料の届出状況」によって決まります。

    • 地域包括医療病棟入院料1: 一般病棟(急性期)が併設されていない場合
    • 地域包括医療病棟入院料2: 一般病棟(急性期)が併設されている場合

特筆すべきは、入院料1の施設基準において**「一般病棟入院料等を算定する病棟との併設が不可」**という極めて厳しい条件が示唆されている点です。この区分の背景について、厚生労働省の資料では次のように言及されています。

「包括期の病棟のみで患者の診療を行う場合の救急受け入れ等の負担を考慮し、急性期病棟の併設がない場合の診療をさらに評価する」

急性期病棟を持たず、地域包括医療病棟のみで救急を完結させる覚悟(単独運用)が求められる病院に対し、その重い負担を点数で正当に評価する姿勢が明確に打ち出されました。自院がどちらの立ち位置で地域医療を支えるのか、明確な戦略的判断が求められます。

4.【患者単位の区分】「入院経路×手術」で決まる3つのランク

施設基準(1・2)が決まった後、さらに患者一人ひとりの状態に応じて、現場では「1(イ)・2(ロ)・3(ハ)」の3段階のいずれかを算定することになります。この「算定マトリクス」を決定するのが、「入院経路」と「手術の有無」の組み合わせです。

  • 入院料1(イ): 緊急入院 + 手術なし(保存的治療)
  • 入院料2(ロ): 「緊急入院 + 手術あり」 または 「予定入院 + 手術なし」
  • 入院料3(ハ): 予定入院 + 手術あり

この細分化の意図は、地域包括医療病棟の主戦場である「誤嚥性肺炎」や「尿路感染症」の実態に即した評価にあります。これらの疾患は緊急入院かつ保存的治療が主体であり、最も頻度が高いボリュームゾーンですが、これまでは治療費に病院の持ち出しが出てしまうこともある症例でした。ここを「入院料1(イ)」として最高評価(あるいは基準)に据えたことは、まさに実態に即した評価へのシフトと言えるでしょう。

特に「入院料2(ロ)」には、緊急の手術ケースと予定の保存的治療ケースという、性質の異なる群が混在している点に注意が必要です。自院の患者層がどこに厚いのか、精緻なシミュレーションが不可欠です。

5. 【運用の盲点】病棟単位ではなく「患者単位」での算定へ

今回の改定で実務上、最も注意しなければならないポイントは、その運用ルールの煩雑化にあります。

「病棟全体でいずれか1つの区分を算定するのではない」という点を、事務方や現場スタッフはよく理解しておく必要があります。

これまでは、病棟が届け出ている入院料を一律に算定すれば済みましたが、令和8年度からは、同じ病棟内であっても患者ごとに算定区分が混在します。さらにコンサルタントとして警鐘を鳴らしたいのは、**「算定区分の事後変動」**のリスクです。

例えば、「予定入院・手術なし」のつもりで入院(入院料2(ロ)に該当)した患者が、入院後に容体が急変して緊急手術を行った場合、あるいは逆に「緊急入院・手術なし(入院料1(イ))」の予定が、精査の結果手術が必要となった場合など、当初の想定から算定区分が変わる局面が多々予想されます。病棟と事務方のリアルタイムな情報共有という、リスク管理の徹底が求められることになりそうです。

6. 結論:令和8年度に向けて病院が今すべきこと

今回の地域包括医療病棟の細分化は、単なる事務作業の増加ではありません。自院が地域において担っている「救急・手術機能のポートフォリオ」を再定義せよ、という国からのメッセージです。

令和8年度の本格導入に向け、経営層が今すぐ着手すべきは以下の3点です。

  1. 実績の可視化: 自院の過去1年間の入院実績を「入院経路(緊急/予定)×手術の有無」でマトリクス化し、どの区分が収益の柱になるかを特定する。
  2. 体制の再考: 急性期病棟の有無による施設基準の選択が、自院の長期的な経営ビジョンと合致しているか再検証する。
  3. 算定フローの構築: 患者の状態変化による算定区分の変動を、漏れなく医事システムに反映させるための運用ルールを整備する。

この変化を複雑化というリスクと捉えるか、機能分化に応じた正当な評価を得るチャンスと捉えるか。その戦略的判断が、令和8年度以降の病院経営を大きく左右することになりそうです。