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1. はじめに:病院経営の「当たり前」が覆る?
病院経営において、「1つの病棟には1つの入院料」というのがかつての常識でした。しかし、近年の複雑な医療ニーズに応えるべく、特定の病室や病床単位で異なる入院料を届け出る運用が広がっています。これにより、病院は限られた病床を有効活用し、経営の安定を図ってきました。
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しかし今、この「当たり前」となっていた運用が大きな岐路に立たされています。中央社会保険医療協議会(中医協)での議論により、病棟内の入院料混在に対するルールが厳格化されようとしているのです。これまで複雑な運用で施設基準を維持してきた病院にとって、これは運用の適正化という「追い風」になるのか、それとも経営基盤を揺るがす「大打撃」となるのか。
2. 衝撃の事実:実は「制限なし」だった?カオス化する病棟運用の実態
現在の診療報酬制度には、驚くべき「空白地帯」が存在します。実は、1つの病棟で届け出可能な特定入院料の「種類」や「数」について、これまで明確な規定が設けられていなかったのです。
現在、現場では以下のような運用が行われています。
- スタンダードな構成: 急性期一般入院料をベースに、一部の病室(例:2室8床)を「地域包括ケア入院医療管理料」として届け出る。
- 病床単位の運用: 「小児入院医療管理料」のように、15歳未満の小児が入院した際のみ算定し、それ以外は一般入院料を算定する(10床以上の区画が必要)といったケース。
- 極めて複雑なケース(3つの混在): 急性期一般入院料の病棟内に、「地域包括ケア」と「回復期リハビリテーション」の管理料をそれぞれ病室単位で組み込む、といった合計3種類もの入院料が混在する運用。
専門家の視点から見ても、この「3つの混在」という実態は驚きを禁じ得ないものです。
「私自身、そんな複雑な運用を……(中略)……されている病院様をそんなに存じあげなかったので、ちょっと個人的にもへえと思ってびっくりしたんです」
このようなカオスとも言える運用は、いわば制度の隙間を縫った「生き残り戦略」でもありました。しかし、これほど複雑な管理は、現在の電子カルテシステムなどのインフラが想定している範囲を超えており、事務現場には凄まじい計算負担を強いています。
3. 「計算ルール」のグレーゾーン:算出指標の曖昧さとリスク
病棟内に異なる入院料が混在することで生じている最大の問題は、施設基準の指標算出における「ルールの曖昧さ」です。特に「平均在院日数」や「在宅復帰率」の計算において、以下の表のようなグレーゾーンが放置されてきました。
| 指標 | 病室・病床単位の計算 | 病棟全体としての計算(曖昧な点) |
| 平均在院日数 | 当該入院料を算定する患者のみで算出 | 病棟全体として計算する際、これらの混合病床を含めるべきか否かが不明確 |
| 在宅復帰率 | 対象病室のみで計算することが明か | 病棟全体として計算する際、混合病床の患者を含めるべきか除外すべきかが不明確 |
この「不明確さ」は、単なる事務的な悩みでは済みません。解釈を誤れば、施設基準の不適合とみなされ、「適時調査での指摘」や「過去に遡っての診療報酬返還」という深刻な経営リスクに直結するからです。現場の事務担当者は、常にこの「正解のない計算」という薄氷を踏む思いで運用を続けているのが実情です。
4. 中医協のメス:検討されている2つの「明確化」
こうした状況を是正するため、中医協では主に以下の2点について明確な制限を設ける議論が進められています。
- 特定入院料の「範囲や個数」の制限: 1つの病棟内で届け出可能な特定入院料の種類や数に一定の上限を設ける。
- 指標計算ルールの厳格化: 在宅復帰率や平均在院日数の計算において、どの病床を分母・分子から除外するのかを厳密に定義する。
この動きに対し、現場を知る専門家としては複雑な心境にならざるを得ません。
「頑張って運用していらっしゃった病院様としては、少しネガティブな情報かなという気はします」
柔軟な病床運用で地域医療を支えてきた病院にとって、ルールの厳格化は収益構造そのものを変えざるを得ない可能性があるからです。
5. 運用の限界か、それとも適正化か?経営への真の衝撃
今回の改定議論は、単なる「書類上のルール変更」では終わりません。病院経営に与える影響は、以下の2点に集約されます。
- 物理的な病棟再編の必要性: もし「1病棟につき特定入院料は1つまで」といった制限がかかれば、これまで1つの病棟に詰め込んでいた機能を物理的に切り分け、病床を移動させなければなりません。これは、病棟の改修や看護配置の再検討を伴う、大規模な組織・資本的コストを要するプロジェクトになります。
- 事務管理の「適正化」と「リスク回避」: ルールが明確になることは、計算ミスによる返還リスクを減らすメリットもあります。しかし、それは同時に「制度の柔軟性」という武器を失うことも意味します。
これまでベッドサイドと医事課の緻密な連携(シンクロナイズ)で乗り切ってきた病院ほど、この「自由度の低下」は大きな痛手となるでしょう。
6. おわりに:変化の波をどう乗り越えるか
病室単位での入院料算定は、経営上の工夫であると同時に、地域ニーズに応えるための「苦肉の策」でもありました。しかし、今後は「ルールが曖昧だから許される」という運用は通用しなくなります。
次期診療報酬改定に向けて、経営層や医事部門が今すぐ取り組むべきは、自院の病棟構成の「棚卸し」です。
「あなたの病院の病棟構成は、今のままで『次』の厳格な基準をクリアできますか?」
複雑なパズルに頼る運用から、よりシンプルで堅実、かつコンプライアンスを重視した病棟運営へのシフト。その決断を下すべき時期が、すぐそこまで来ています。今後の議論の行方に、引き続き細心の注意を払っていきましょう。

