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はじめに:重症度、医療・看護必要度を巡る直近の議論
本日は、令和8年度診療報酬改定に向けた最新情報をお届けします。
過去の記事でも「重症度、医療・看護必要度」の改定の方向性についてお伝えしてきましたが、今回は特に「内科系症例の評価」に焦点を当てた議論がさらに進んでいます。シミュレーション結果も共有され、議論の方向性が固まりつつある印象を受けています。
そこで最新情報として、現時点での改定の方向性について、改めてお話しします。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
出典: 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 資料「中医協 総-2 7.11.26」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001599551.pdf
現行の重症度、医療・看護必要度と内科系病院への影響
まず、現状の課題を整理しましょう。前回の令和6年度診療報酬改定において、多くの内科系病院にとって「大打撃」となった変更がありました。それは、救急搬送後の入院の評価期間が「5日間」から「2日間」へと短縮されたことです。
この変更により、手術を行わない内科系症例が多い病院では、看護必要度の該当割合が大きく低下してしまいました。現場の皆様からも「内科の重症患者をしっかり診ているのに、それが評価につながらない」という悲痛な声が聞かれていました。こうした背景を踏まえ、中医協では、いかにして内科系症例の重症度を正当に評価するか、その基準作りについて議論が重ねられています。
現在、議論の軸となっているのは大きく分けて以下の2点です。
- 内科系疾患に関連した「A項目」と「C項目」への項目追加
- 救急搬送患者の評価における「重み付け」の強化
それぞれの詳細と、最新のシミュレーション結果を見ていきましょう。
A項目・C項目への追加案とその影響
まず一つ目の柱が、項目の追加です。内科学会などが提案している「内科系の重症・急性期に用いる薬剤や処置」を、A項目およびC項目に新たに追加するという案が出ています。

現行の制度下で「手術あり症例」と「手術なし症例」の看護必要度該当割合を比較すると、その差は24.3ポイントもの開きがあります。手術がある症例の方が圧倒的に点数がつきやすい構造になっているわけです。しかし、今回提案されている項目をA項目・C項目に追加した場合のシミュレーションによると、追加後は22.8ポイントとなり、現行よりも格差が1.5ポイント縮小することが示されました。
わずかな差に見えるかもしれませんが、これは「手術偏重」の評価体系から、内科的な処置や管理も評価する方向へ舵を切るための重要な一歩と言えます。
追加される具体的な薬剤や処置の項目については、内科学会からの提案ベースでほぼ固まりつつあるという印象を持っています。

この「項目の追加」に関しては、ほぼ確定の方向性と考えて差し支えないでしょう。
救急搬送患者の評価方法を巡る検討
さて、もう一つの、そしてより大きなインパクトを持つ可能性があるのが「救急搬送患者の評価」の見直しです。

前述の通り、前回改定で評価期間が「5日から2日」に短縮されたことが、内科系病院の評価を下げる要因となりました。これに対する改善策として、議論の過程では2つの案が出ていました。
・案①:評価期間を元に戻す(増やす) 単純に短縮された日数を、再び長くするという案です。
・案②:救急搬送の受け入れ実績を「指数化」して合算する 「該当患者割合(%)」そのものに、病院の救急搬送件数に応じた係数をプラスするという案です。
最新の議論の経過を見ると、どうやら案②の「指数化して合算する」という方向性が強まってきているようです。
つまり、個々の患者さんの「該当日数」を延ばすというアプローチではなく、「病床数あたりの年間救急搬送件数」などを指数化し、それを看護必要度の基準値に足すという仕組みが検討されています。
これは非常に画期的な変更です。なぜなら、個々の症例ごとの積み上げだけでなく、病院全体としての「救急医療への貢献度」が、ダイレクトに看護必要度の数値(%)に反映される形になるからです。
救急搬送評価を加味したシミュレーション結果
では、この「A・C項目の追加」と「救急搬送件数の指数化(加算)」を組み合わせると、実際の数値はどのように変化するのでしょうか。シミュレーション結果を見てみましょう。

結論から申し上げますと、「救急搬送受け入れ件数」と「当該病棟での入院受け入れ件数」が共に多い病棟では、看護必要度の該当割合が大きく上昇するという結果が出ています。

具体的な数字で見てみます。 現行の評価体系での該当割合が28.3%だったケースでシミュレーションを行ったところ、A・C項目の追加に加え、救急加算(係数5%の場合)を適用すると、なんと35.4%まで上昇するという結果になりました。これは非常に大きな上昇幅です。
ここで重要になるのが、「救急搬送件数を指数化して足す」際の「係数」を何%に設定するかという点です。今回のシミュレーションでは、2.5%、5%、7.5%の3パターンで検証が行われています。
・係数 2.5%の場合:32.4%
・係数 5.0%の場合:35.4%
・係数 7.5%の場合:38.4%

現状の分析としては、7.5%という数字は上がりすぎているため現実的ではなく、おそらく2.5%ないしは5%の範囲で調整される可能性が高いと見ています。いずれにせよ、病床規模に応じてしっかりと救急車を受け入れている病院にとっては、評価が底上げされるポジティブな改定となることは間違いなさそうです。
入院料の異なる病棟が併設されている場合の取り扱い
ここで一つ疑問が生じます。ケアミックス病院のように、「急性期一般病棟」や「地域包括ケア病棟」など、入院料の異なる病棟が併設されている場合、この「救急搬送件数の指数」はどのように計算されるのでしょうか?単純に病院全体の件数を、すべての病棟の看護必要度にプラスしてもらえるのでしょうか?
残念ながら、そこまで単純な話ではないようです。
最新の案では、入院料の異なる病棟が併設されている場合、「按分(あんぶん)」した形で係数がプラスされる計算式が検討されています。

具体的には、救急搬送された患者さんが実際に入院した病棟の実績に基づいて計算されることになりそうです。 例えば、急性期一般病棟での受け入れが多ければ、その分は急性期一般病棟の係数に反映されます。一方で、地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟での救急受け入れが多い場合は、そちらの病棟の評価に計上されることになります。
つまり、「病院全体で救急を取っているから、全病棟の点数が上がる」のではなく、「救急患者を実際に受け入れている当該病棟の評価が高まる」という、より実態に即した精緻な計算が求められることになりそうです。
手術なし症例が多い病棟における必要度分布の変化
今回の改定議論で最も注目すべき点は、「手術なし症例」が多い病棟における変化です。
これまでは、救急車を多く受け入れていても、手術を行わず、かつA項目の高い点数がつくような処置(呼吸器管理や昇圧剤など)がない患者さんの場合、看護必要度に該当せず、評価が低くなってしまうというジレンマがありました。
しかし、今回のシミュレーション結果は、その状況を一変させる可能性を示唆しています。

「急性期一般入院基本料1」において、病床数あたりの救急搬送数が多い病院であれば、手術なしの症例が多い病棟であっても、看護必要度が大きく上昇することが示されました。 これは、手術件数だけに依存せず、「内科的急性期医療」と「救急対応」を行っている実績が正当に評価される方向へとシフトしていることを意味します。
地域包括医療病棟におけるシミュレーション結果
地域包括医療病棟においても同様のシミュレーションが行われています。

地域包括医療病棟において救急搬送をしっかり受け入れている場合、手術なし症例が多くても、看護必要度が現行の19.4%から27.7%まで上昇するという劇的なシミュレーション結果が出ています。
これは、地域医療を支える病院にとって非常に勇気づけられるデータではないでしょうか。救急医療の負担を担っている病院が、制度上でも報われる形になりつつあります。
現在議論されている課題と論点の整理
最後に、今回の議論のポイントを整理します。

令和8年度改定に向けた「重症度、医療・看護必要度」の論点は、以下の2点に集約されます。
- 内科系の重症・急性期薬剤および処置等をA・C項目に追加する
- 救急搬送受け入れ件数に応じた「加算(指数化)」を新設する
これらによって期待される効果は明確です。「救急対応が多い病棟ほど、看護必要度の該当割合が上昇する」ということです。 特に、これまでは評価が低くなりがちだった「救急搬送は多いが、手術は少ない」という内科系主体の病棟において、改定によるプラス効果(評価の上昇)が大きくなることがシミュレーションで裏付けられました。
今後の改定スケジュールを見据えて
診療報酬改定の議論が進み、例年通りであれば2月頃には具体的な改定案(短冊)が発表される見込みです。 今回お話しした内容は、まだ「検討中の案」ではありますが、シミュレーション結果も出揃ってきており、大枠としてはこの方向性(内科・救急の評価引き上げ)で進むことはほぼ間違いないと考えています。
病院経営に携わる皆様におかれましては、自院の救急搬送件数や内科系症例の処置内容を改めて確認し、この新しい評価体系になった場合にどのような影響が出るか、早めに予測を立てておくことをお勧めします。特に「2.5%〜5%の係数」が乗った場合に、自院の看護必要度がどう変化するかを試算してみると良いでしょう。
この記事が、皆様の病院経営や次期改定への準備の一助となれば幸いです。

