Contents
1. 導入:2026年、医療現場に突きつけられる「変化」の正体
2026年度(令和8年度)診療報酬改定に向け、中医協から「これまでの議論の整理」が公表されました。これは単なる点数の微調整ではありません。物価高騰、人手不足、そして2040年を見据えた機能分化という荒波に対し、厚生労働省が示した「回答」です。
動画もせひ、ご覧ください。
今回の議論整理からは、従来の「加算で対応する」という場当たり的な手法から、経営の根幹である「基本料」や「配置基準」そのものに切り込む強い姿勢が読み取れます。本稿では、病院経営を左右する「5つの衝撃」を専門的知見から鋭く分析し、生き残りのための視点を提示します。
2. 衝撃1:物価高騰と賃上げへの「恒久的」な回答
今回の最重要トピックは、物価高騰への対応が「一時的な手当て」から「構造的な見直し」へと進化した点です。従来の「賃上げ加算」のような時限的な評価ではなく、経営のベースとなる「基本料」に直接踏み込む方針が示されました。
具体的には、以下の「二段構え」の対応が検討されています。
- 基本料の構造的見直し:初診料・再診料、および入院基本料そのものを引き上げ、物価高騰分を恒久的に吸収する。
- 将来へのセーフティネット:令和8年度・9年度に予想されるさらなる物価高騰に備え、新たな評価枠組みを新設する。
- 生活コストの適正化:入院時の食事・光熱水費の基準額を、実勢価格に合わせて引き上げる。
これは、すべての医療機関に等しく影響する「底上げ」であると同時に、コスト管理を徹底できない病院は基本料の見直しだけでは立ち行かなくなるという、厳しい警告でもあります。
3. 衝撃2:ICT・AIが「看護師の配置基準」を動かす時代へ
深刻な人手不足への対策として、ICTの活用が「業務効率化」の枠を超え、ついに入院基本料の「看護職員配置基準」にまで踏み込みます。単に機器を導入するだけではなく、「組織的な活用」が評価の鍵となります。
「ICT機器等を活用し見守り、記録、情報共有、業務効率化と有効なICT機器等を組織的に活用した場合に、入院基本料等に規定する看護職員の配置基準を柔軟化する」
方向性は明確です。テクノロジーへの投資が、直接的に「人的リソースの確保」という経営課題を解決する手段として認められます。ICTへの投資を「コスト」と捉えるか、人員配置を適正化するための「武器」と捉えるかで、病院の収益構造は決定的に変わるでしょう。
4. 衝撃3:身体的拘束の最小化は「加点」から「減算」の厳罰化へ
身体的拘束の最小化に向けた取り組みは、もはや「努力目標」ではありません。今改定では、質の高い取り組みへの評価(加算)と並行して、強力な「ペナルティ(減算)」の強化が示唆されています。
- 質の高い取り組みへの新評価:適切な体制を構築している病院への新たな評価。
- 入院料そのものの減算リスク:「身体的拘束の基準未達」で減算(評価の見直し)するという、経営に直撃する方針。
- 包括的な認知症ケアへの連動:認知症ケア加算の見直しも同時に行われ、アセスメントとケアの質が財務リスクに直結する仕組みへと移行します。
「人手が足りないから拘束もやむを得ない」という論理は、もはや経営的な自死を意味します。
5. 衝撃4:ICU・HCUに求められる「真の実績」— 数値化される病院の機能
特定集中治療室(ICU)やハイケアユニット(HCU)においても、今後は「実際にどれだけ重症患者を動かしているか(実績)」が厳格に問われます。
追加が検討されている実績要件は以下の通りです。
- 救急搬送件数および全身麻酔手術件数の実績化。
- ICUにおける**SOFAスコア(重症度スコア)**が一定以上の患者割合。
- 包括範囲の再定義:地域包括医療病棟や療養病棟等において、現在は入院料に含まれている「薬剤・注射薬」の包括範囲を見直し、適切な医療資源投入を評価する動き。
地域で実際に機能している病院に報酬が集中する「実績主義」への移行が鮮明になっています。
6. 衝撃5:リハ・栄養・口腔の「三位一体」が標準装備に
令和6年度に新設された「リハ・栄養・口腔連携体制加算」の考え方が、いよいよ地域医療のスタンダードへと昇華します。
- 地域包括ケア病棟への波及:地域包括医療病棟で先行したこの一体的評価が、地域包括ケア病棟等においても算定可能となる方向で検討されています。
- 一体的提供の義務化への流れ:リハビリ、栄養管理、口腔管理の3セクションが個別に動くのではなく、一連のケアパッケージとして提供される体制が「標準装備」として求められます。
多職種連携はもはや理想論ではなく、病床を維持するための「最低条件」となります。
結び:2040年を見据えた「生存競争」の始まり
今回の改定議論が目指す先は、2040年頃を見据えた徹底的な「機能分化」と「効率化」です。
実績重視の評価、ICTによる省力化の報酬化、そして基本料の見直し。これらが意味するのは、医療機関の「選別」です。効率化と質の向上を両立させ、地域で求められる機能を「実績」として証明できる病院だけが生き残る「適者生存」の時代が到来します。
2026年度の改定は、その最終通告となるかもしれません。議論の整理が示された今こそ、自院の機能を再定義し、次なる一手へ踏み出すべき時です。

