1. 導入:生産年齢人口の減少という「静かな危機」にどう立ち向かうか

日本の医療現場は今、生産年齢人口の急激な減少に伴う「医療従事者確保の制約」という、避けては通れない壁に直面しています。特に看護師不足は深刻であり、「人手が足りない、しかし質は落とせない」というジレンマは、もはや現場努力だけで解決できるフェーズを超えています。

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令和8年度の診療報酬改定において、この危機に対する強力な**「戦略的布石」として提示されたのが、「看護・多職種協働加算」**の新設です。これは単なる点数の上乗せではありません。看護師が不足する中で、病棟の機能を維持・向上させるための「人的リソースのポートフォリオ変革」を促す、経営的に極めて重要なメッセージが込められています。また読めば読むほど、チーム医療の推進を進めるための重要な加算の新設であることが分かります。

2. 「10対1」病棟が、多職種とのタッグで「実質7対1」相当の評価へ

今回の改定の核心は、看護配置「10対1」の病棟である急性期病院Bと急性期一般4が、他職種との協働体制を構築することで、人的密度において「7対1相当」の評価を得られるルートを切り拓いた場合に加算される点にあります。

具体的には、対象となる入院料によって以下の2つの区分が新設されます。

  • 看護・多職種協働加算1: 急性期一般入院料4
  • 看護・多職種協働加算2: 急性期病院B(新設される入院料カテゴリ)

経営的な視点で見落とせないのは、「専門性による生産性向上」を求める攻めの一手であることです。

他職種が専門性を発揮して病棟において協働する体制にかかる評価の新設

この趣旨が示す通り、看護師の穴を単に埋めるのではなく、他職種を病棟に「配置」することで、患者のADL(日常生活動作)維持向上を加速させる体制を求めています。10対1病棟でありながら、7対1病棟と同等の診療報酬レベルを目指せるこの仕組みは、今後の病棟経営における大きなライフラインとなるでしょう。

3. 意外な登場人物:臨床検査技師の参戦と、薬剤師の「不在」

本加算において配置対象となる職種は、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、管理栄養士、そして臨床検査技師です。

ここで特筆すべきは、臨床検査技師のラインナップ入りです。病棟に検査技師を配置する狙いは、POCT(臨床現場即時検査)の推進や迅速なアセスメントを通じた、診断・治療サイクルの高速化にあると考えられます。迅速な意思決定は結果として在院日数の短縮に直結するため、本加算の目的に合致する戦略的な配置と言えます。

一方で、チーム医療の要である薬剤師が対象に含まれていない点は一見不思議に思えるかもしれません。しかし、これは「病棟薬剤業務実施加算」という既存の評価体系との重複を避けるための合理的な整理と解釈すべきでしょう。本加算は、リハビリや栄養、検査といった「身体機能と代謝のアセスメント」に特化したプロフェッショナルを病棟に厚く配置することで、患者の「回復力」を最大化することに主眼が置かれています。

4. 「25対1」の基準と、背後に隠された「高い経営的リスク」

この加算を獲得するためには、極めて高いハードルを越える必要があります。まず人員基準として、看護師10対1のベースに加えて、**「入院患者25人につき1人以上」**の追加職種を配置し、トータルで7対1相当の密度を担保することが求められます。

しかし、真に注視すべきは人員数よりも、付帯する施設基準の厳しさです。

  • 重症度、医療・看護必要度: 急性期一般入院料1(7対1病棟)と同等の基準が求められる見込みです。これは、10対1のインフラで、最上位病棟と同じ「重症患者」を受け入れ、管理しなければならないことを意味します。
  • 平均在院日数の短縮: 現在の対象病棟の基準(21日以内)よりも、さらに短い日数が設定される可能性が濃厚です。

経営層は、この加算が「7対1相当の報酬」を与える代わりに、病棟に対して「超急性期並みの高回転・高密度なオペレーション」の維持を要求しているという現実を直視しなければなりません。単なる配置ではなく、徹底したベッドコントロールと、職種間の壁を取り払ったシームレスな連携が不可欠となります。

5. 結論:病棟は「看護師だけの場所」ではなくなる!

「看護・多職種協働加算」の新設は、日本の病棟モデルが「看護師完結型」から「多職種混在型」へとパラダイムシフトしたことを象徴しています。これからの病棟は、PTや管理栄養士、検査技師が日常の風景として溶け込み、それぞれの専門知見がリアルタイムで協働し合うプラットフォームへと変貌していくはずです。

この変化は、看護師の負担軽減のみならず、患者にとっての質的向上、そして病院経営の安定化をもたらす大きなチャンスです。しかし、それを実現するには、従来の部門別の縦割り組織を解体する覚悟が求められます。

「あなたの病院では、職種の垣根を超えた『真の協働』への準備ができていますか?」

今、求められているのは点数を取りに行く技術ではなく、組織のあり方そのものを再定義する経営の意思決定です。