こんにちは。病院経営コンサルの勝又です。

さて、3月12日に日本医師会と六つの病院団体が合同記者会見を行いました。急激な物価上昇と、人件費高騰により、今、病院の経営が危機的な状況にあります。この記者会見では、「このままではある日突然、病院が無くなる」と強い危機感を国に訴えています。

本テーマはyutubeに動画をアップしていますので、ご興味のある方はご覧ください。

診療報酬は公定価格です。しかし物価・賃金の上昇に対応して診療報酬が上がっていません。

2024年度の改定率

診療報酬は、国(厚生労働省)が定めた“全国一律の価格(=公定価格)”であるということです。つまり、病院やクリニックなどの医療機関が保険診療を行う場合、「自由に値段を決めることはできず、あらかじめ国が決めた料金表に基づいて診療を行う」仕組みになっています。しかし、2024年度の診療報酬改定の改定率はプラス0.61%でした。厚生労働省は今回の改定を「プラス改定」としていますが、実態は以下の通りです。

本体:+0.88%

薬価・材料:▲0.27%

実質改定率:+0.61%

これは見かけ上プラスではあるものの、物価や人件費の高騰を加味すると“マイナス”とも取れる水準です。

物価・人件費高騰が反映されていない

2022年以降、医薬品、光熱費、診療材料、そして最低賃金の引き上げ等によって人件費を含め高騰しており、医療機関の運営コストは大きく上昇しています。にもかかわらず、物価高騰への直接的な補填は行われていません。診療報酬でそれらのコストを吸収する設計にはなっていないという構造になっており、現場からは「この改定でどうやって医療を維持しろというのか」という声が上がっています。

「人件費を上げろ」と求めながら、財源が不十分

2024年度の改定では、「医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組」が大きなテーマの1つでした。厚労省は「賃上げのための原資を診療報酬に織り込んだ」としており、現にベースアップ評価料が新設されました。このベースアップ評価料は、「職員のベースアップをするなら、その分を診療報酬で加算して支援しますよ」という設計ですが、実際には、対象職種が限られており、本加算算定において事務負担は大きいにも関わらず、事務職員は対象職種ではないなどの矛盾もあります。また、医療・介護に従事する数多くのスタッフの賃金を、 他産業と同じように上げることが難しくなっています。さらに、自治体病院などのように人勧に則ってベースアップを行った医療機関にしてみると(他産業並みに賃上げを行うと)、その金額は十分ではなく、人件費に対しての収入は全く追いついていない状況が生じています。

結果、多くの病院は深刻な経営難に陥っている

物価・賃金の上昇に適切に対応した診療報酬の仕組みが必要なのです。

【緊急調査】2024年度診療報酬改定後の病院の経営状況

そこで、この病院経営の危機的な状況を国に訴えるために、日本医師会と六つの病院団体は医療機関に緊急調査を行ったのです。今日はその結果を見ていきます。

結論

調査概要

病床利用率は上昇

調査結果によると、2023年度に比較し、2024年度は病床利用率が上昇しています。これはすなわち、入院収益は増加しているものと考えられます。

医業費用が医業収益を上回っている

しかし、医業収益の伸びよりも、医業費用のほうが増大してしまっており、結果的に、医業利益率・経常利益率ともにマイナスとなっており、そのマイナスの幅は、2023年度より2024年度の方が悪化している状況です。

医業費用の推移

2018年と2023年の経費の変化を見てみると、医薬品や診療材料費の増加が著しく、なっています。2023年度時点では、給与費の伸びはそこまでではありません。また、委託費、水道光熱費などの経費増大により、控除対象外消費税は約50%増加しています。

次に、2023年、2024年の比較を見ると、給与費の増大が目立ち、加えてすべての経費が増大しています。改定後の医業収益の増加率に対し、医薬品費以外の全ての経費の増加率が上回っていた状況です。

赤字病院割合が増加

そのため、赤字病院の割合は、当然、増加している状況です。

日本の病院の半数が「財務的に非常に厳しく、破綻のリスクが高い状態」

債務償還年数とは?

病院が借金(負債)をどのくらいの期間で返済できるかを示す指標のことです。この年数が長いほど、返済に時間がかかる=財務状況が厳しいことを意味します。

30年超及びマイナスとは?

30年超:
借金を返すのに30年以上かかる状態を指し、一般的に「破綻のリスクが高い」とみなされます。

債務償還年数が計算上マイナスになる場合は、そもそも返済の見込みがないほど厳しい財務状況を意味します。

つまり、日本の病院の半数が「財務的に非常に厳しく、破綻のリスクが高い状態」にある

今、病院経営は非常に危機的な状況にあり、本当にある日突然、病院がなくなってしまうかもしれません。