病院経営における看護師配置の最適化

病院経営の改善には、大きく分けて収益を増やす方法とコストを削減する方法があります。その中で、特に重要な収益源である入院収益は、「入院患者数×入院単価」によって決まります。入院患者数を維持・向上するためには、効率的な看護師配置が大きな鍵を握ります。

看護師不足の認識とその影響

入院収益を得るためには、施設基準を満たす必要があります。その中でも特に重要なのが看護配置基準で、入院料の種別ごとに「7対1」や「10対1」などの配置基準が決められています。さらに、一般病棟の入院基本料の基準を維持するためには、夜勤の看護師は1人あたり平均月72時間以内であることなどのルールもあります。また、病棟だけでなく、外来、手術室、透析室など他の部署への看護師配置も必要となるため、病院全体の看護師数が適正であるかどうかが非常にわかりにくい実態があり、数字根拠があいまいな「看護師不足」が生じやすくなります。そのため、「看護師不足により」病棟閉鎖や病床制限に面している病院が増加しています。しかし、看護師不足とされる状況が、実際には配置の不適正や誤った認識によるもの、もしくは、マネジメントが要因にあるケースも少なくありません。

看護師配置の最適化の重要性

昨今では、人件費が高騰しているため、「看護師が足らないから病棟閉鎖になり、病棟を再開するために看護師を増やそう」とはなりません。人件費の増加は固定費の増加につながり、収益が伴わない場合、病院経営に深刻な悪影響を及ぼします。たとえ看護師確保をしたくても看護師が集まらない現状はなかなか簡単には解決できない地域も増えてきているでしょう。それらの背景の中、看護師の適正配置を考え、効率的な人員配置と運用を行う必要性が高まっています。

看護師配置を最適化するためには、まず現状を徹底的に分析することが求められます。具体的には、病院全体の看護師数から各部署への配置人数、夜勤体制などを詳細にシミュレーションし、以下の点を確認します。

  1. 各部署での看護師の必要人数と現在の配置状況
  2. 夜勤や病棟配置における基準遵守のための具体的な配置案
  3. 病床数の適正化により看護師数をどの程度適正化(シミュレーションに近づけることが)できるか

適正な配置を導き出した後、それを各部署に実行してもらうためのプロセスも重要です。具体的には、シミュレーション結果を基に看護部長・副部長と協議後、看護師長や副師長などの各部署長とも具体的に対話を行い、「なぜできないか」ではなく「どうやったらできるのか」という視点で課題を共有し、解決に向けた対話を続けます。

部分最適から全体最適への移行

看護師配置の問題が解決されない大きな理由の一つとして、自分の部署しか見えていないため部分最適に固執する主張が強いことが多々あります。例えば、ある部署だけで看護師不足を主張し、他部署と比較して不公平感を訴えるケースは散見されます。院内の部署同士で比較し合い、「うちの方が忙しい」「うちの方が人が足らない」という主張の戦いになってしまいがちです。これに対処するためには、全体最適の視点で人員配置を行うための丁寧な説明と、全体像の共有が必要です。各部署の課題や制約を理解しつつ、病院全体として最も効率的な配置案を説明し、そのために各部署ではどういった対応をして行く必要があるのかと説明し、一緒に考えていきます。この過程においては、根拠を伴ったシミュレーションが重要であり、それを基に看護師長たちと十分に対話を重ねることが不可欠です。

実現へのステップ

以下は、看護師配置最適化のための具体的なプロセスです。

  1. シミュレーションの実施: 配置人数や病床数の変更による影響を数値化し、具体的なシミュレーションを行います。
  2. 現状分析: 病院全体および各部署の看護師配置状況、業務内容、勤務形態を詳細に把握します。

  3. 各部署長との対話: シミュレーション結果を基に、各部署の課題を共有し、解決策を一緒に考えます。

  4. 全体最適の共有: 部署間の公平性を確保しながら、全体的に効率的な配置案を実行します。
  5. 継続的な見直し: 配置の効果を定期的に検証し、必要に応じて調整を行います。

結論

病院経営における看護師配置の最適化は、収益向上とコスト削減の両面で非常に重要です。人件費の高騰や看護師不足が課題となる中で、部分最適に陥るのではなく、全体最適を目指した配置計画を立てることが求められます。そのためには、徹底的な現状分析とシミュレーション、そして看護師長や各部署との密な対話により、マネジメント力を強化し、病院一丸となって、進めていくことが不可欠です。

適正な看護師配置を実現することで、不透明な看護師不足の解消や病院経営の効率化が期待でき、最終的には地域に必要な医療の維持につながっていくでしょう、