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はじめに
2024年度の診療報酬改定では、新たに「地域包括医療病棟入院料」が創設されました。これまでの急性期病棟、回復期リハビリ病棟、地域包括ケア病棟などの区分とは異なる、新しい位置づけを持つ病棟です。その役割は、高齢者を中心とする救急患者に対して、リハビリ・栄養管理・口腔管理・入退院支援を包括的に提供し、在宅復帰を支えることにあります。
本記事では、地域包括医療病棟の算定要件や施設基準、実務上のポイント、そして今後の医療提供体制における意義について、わかりやすく整理していきます。
YouTubeでも解説していますので、是非、ご覧ください。
地域包括医療病棟の役割
地域包括医療病棟は、急性期治療を終えた患者をただ「受け入れる」だけではありません。救急搬送を受け入れつつ、早期からADL維持・改善に向けたリハビリ、低栄養予防のための栄養管理、口腔機能の維持、退院支援を組み合わせて行うことが求められています。言い換えれば、「救急と在宅復帰の橋渡しを担う新しい病棟」としての役割を与えられた病棟です。
入院料と包括範囲
地域包括医療病棟入院料は 1日3,050点 とされ、基本診療料に含まれる処置や薬剤費は包括に含まれます。別途算定ができないため、経営的には「包括範囲の広い病棟」となります。この点は、従来の地域包括ケア病棟と同様に「効率的な運営」と「適切な患者選定」が病院経営に直結する仕組みであり、現場にとっては負担感とやりがいの両方を伴う制度といえるでしょう。
算定要件 ― 患者評価と計画作成
地域包括医療病棟では、すべての入院患者に対し、入棟後48時間以内に以下の評価を行う必要があります。
- ADL評価
- 栄養状態の評価
- 口腔状態の評価
これらは 別紙様式7の2 を用いて実施し、その結果に基づいて 別紙様式7の4 によるリハ・栄養・口腔管理の計画を作成します。退棟時にも評価を行い、必要に応じて再評価を行うことが望ましいとされています。つまり、評価と計画作成が「病棟の当たり前」として制度化され、全患者を対象に多職種でアプローチする仕組みが明確化されたのです。
カンファレンスの義務化と多職種連携
地域包括医療病棟では、ADL維持・向上に関するカンファレンスの定期開催が義務付けられています。参加メンバーは以下の通りです。
- 医師
- 看護師
- 専従の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
- 専任の管理栄養士
- 必要に応じてその他職種
これら多職種が揃って患者情報を共有し、カンファレンスの内容を記録に残すことが必須要件とされています。
リハビリテーションの位置づけ
専従のリハ職は、疾患別リハ対象患者に加えて、対象外の患者に対してもADL維持・向上を目的とした指導を行わなければなりません。そのため、専従リハ職は1日につき6単位を超える疾患別リハ算定ができないとされており、「包括的ADL支援」が役割の中心に据えられています。これは、廃用症候群やサルコペニアの予防を病棟全体のミッションに据える取り組みであり、「すべての患者にリハを届ける」というメッセージでもあります。
栄養管理と口腔ケアの重視
専任の管理栄養士は、全入院患者に対して低栄養予防を目的とした栄養管理を行い、カンファレンスで必要に応じて食事調整の提案を行います。また、口腔ケアや摂食嚥下機能の維持も含まれており、歯科との連携も視野に入れた体制づくりが求められます。ここで強調すべきは、「食べる力を守ることが退院支援そのものにつながる」という視点です。栄養・口腔がリハと並んで明示的に要件化されたのは大きな進展といえるでしょう。
施設基準 ― 病棟の体制と救急対応
地域包括医療病棟の施設基準は非常に細かく規定されています。
- 看護配置 10:1 以上
- 常勤のリハ職2名以上配置
- 専任の常勤管理栄養士1名以上配置
- 在院日数 21日以内
- 在宅復帰率 8割以上
- 救急搬送後患者割合 15%以上
- ADL低下率 5%未満
- 一般病棟からの転棟割合 5%未満
さらに、救急医療機関であり、常時CT・MRIを含む検査体制を有すること、入退院支援加算1やデータ提出加算の届出を行っていることなども要件となっています。これらは、地域包括医療病棟が単なる「受け皿」ではなく、地域の救急医療と在宅復帰の双方を担う病棟として設計されていることを示しています。
疑義解釈にみる実務上のポイント
厚労省の疑義解釈では、実務に直結するポイントが示されています。
- 管理栄養士は1人1病棟の専任配置が必須(兼務不可)
- リハ専用の設備は必須ではない
- MRI等対応はオンコール体制でも可
- 同一入院料を算定する病棟への転棟時にもADL測定が必要
- 一時的に基準達成が難しい場合は、最大3か月間除外可能
これらは現場でよく問題となる部分への回答であり、病棟運営において押さえておくべき重要なポイントです。
さいごに
地域包括医療病棟は、急性期と回復期、在宅の間の存在です。救急搬送を受け入れつつ、早期から多職種でADLを守り、栄養と口腔を整え、退院支援まで一体的に行う。これはまさに、「地域包括ケアシステムを病棟単位で体現する」新しい入院料といえます。2024年度診療報酬改定で創設された地域包括医療病棟は、救急対応と在宅復帰支援を両立させる新しい病棟です。多職種が協働し、ADL・栄養・口腔を総合的に評価・管理することで、患者の生活を守り、地域の医療提供体制を支えます。従来の病棟区分にとらわれない柔軟な仕組みとして、今後の地域医療における重要な役割を担っていくことは間違いありません。