こんにちは。病院経営コンサルタントの勝又です。本日は、看護師の給与の実態【後編 病院経営からみる看護師の給与の実態】について説明いたします。

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病院経営の構造について

まずは病院経営の構造について説明します。病院経営は基本的に、患者さんから得られる収入(事業収益)と、それにかかる費用(事業費用)から成り立っています。収入は、入院や外来患者一人あたりの単価に患者数を掛け合わせたものです。一方、費用は人件費、材料費、委託費、減価償却費、その他費用で構成されています。中でも特に問題となっているのが人件費です。

病院の人件費は職員数と給与単価を掛けたものであり、近年は両方とも増加傾向にあります。特に2023年度のデータを見ると、病院の収益は約10.3%増えていますが、それ以上に費用が14.7%増えてしまっています。その結果、病院の利益は悪化しているのが現状です。中でも費用の50%以上を占める人件費の影響が特に大きく、増加率は10.7%にも上っています。

看護職員数の推移と増加傾向

多くの方が感じている看護職員不足の問題について触れます。多くの現場では看護師が足りないと感じていると思いますが、実際のデータでは病院の職員数、特に看護師数は減っているわけではありません。むしろ増えているのです。

2017年度から2023年度にかけて、病院の職員数は全体で増加しています。特に看護師は1施設(100床あたり)で5.3人も増えています。また医師も4人、リハビリ職種が1.9人、事務職員が2人増えています。ただし、准看護師は2.4人減少しています。つまり、看護職員全体としては増加傾向にありますが、准看護師が減り、看護師の割合が高まっています。

看護師の給与単価の上昇

続いて給与単価について見ていきます。看護師の給与は年々増加傾向にあり、2018年から2024年までに約9.8%も上昇しています。これはリハビリ職種など他の医療職も同様です。職員数が増え、かつ給与単価も上がっているため、人件費が増加している構造になっています。

また、看護師と准看護師の給与の差は約7万円あり、准看護師が減り、給与の高い看護師の割合が増えることで、看護職員全体の給与負担がさらに増加しています。その結果、この6年間で1人あたり約4万4000円の給与増となり、人件費増加の要因となっています。

医療業界の賃上げ状況と他産業との比較

ここで、医療業界全体の賃上げ状況についても確認します。確かに医療業界の給与水準は年々上がってはいますが、実は他産業と比較するとまだ追いついていないのが実情です。産業全体では2023年に3.2%、2024年には4.1%と賃上げ率が伸びていますが、医療業界は2.8%から2.5%程度に留まっています。

つまり、看護職員の給与は他業種と比べて十分なペースで上がっていないため、物価の上昇に見合った賃上げがなされていないという課題があります。

看護師の平均年齢上昇による人件費の増加

看護師の給与単価が増加しているもう一つの理由として、看護師の平均年齢の上昇があります。看護師は年齢が上がると給与が増える仕組みになっているため、看護師の平均年齢が上がれば当然人件費も増えます。実際、最近のデータを見ると、看護師の給与が増えている理由の大きな要素は、この年齢上昇によるものだと分かっています。

新卒や勤続10年の看護師の給与も増えてはいますが、それ以上に平均年齢の上昇による給与増加の影響が大きいのです。そのため、実際には個々の看護師の給与水準そのものが大幅に改善されているというよりも、勤続年数や年齢による昇給で平均的な人件費が上がっているということになります。

医療業界における人件費率の高さ

ここで改めて医療業界の人件費が非常に高いことを指摘します。他産業では人件費が全体の20%〜40%程度を占めるのに対し、病院経営における人件費は50%〜60%以上にも及びます。特に公立病院では給与比率が62.8%にも達しており、公的病院の53.7%よりも高い水準にあります。最近のデータでは、さらにこの傾向が顕著になっており、病院の中には給与比率が70%近くにまで達するところも出てきています。これは病院経営にとって非常に大きな負担となり、運営が難しくなっている理由の一つです。

このように看護師の給与は年々上昇していますが、病院経営としては費用負担が大きくなり、給与アップが追いつかない状況に陥っています。実際に現場で働いている看護師さんたちからすれば、給与が十分に上がっているとは感じられず、むしろ負担が増えている感覚を持つ人が多いでしょう。

新卒看護師の離職率と教育体制の変化

次に、新卒看護師の離職率について見ていきます。新卒看護師の離職率は、コロナ禍の影響で一時的に10%を超えるほど高まりました。その後、この離職率を下げるため、多くの病院で教育体制の見直しが行われました。特に、新卒看護師に対しては丁寧な教育やサポートが重視されるようになっています。

しかし、その結果として現場への負担が増えている側面もあります。例えば、新卒看護師の夜勤開始が以前より遅れるようになり、その分の業務を中堅・ベテラン看護師が負担せざるを得なくなりました。また、新卒看護師の病欠率も近年増加しているため、現場としては「人が増えているはずなのに人手不足が解消されない」と感じる状況が続いています。

病欠率の増加と現場の実感とのギャップ

ここで、「病欠(病休)」という問題に焦点を当てます。近年、新卒看護師を中心に病欠が増えている傾向があり、職員数としては増加しているにもかかわらず、実際の現場では人手が足りないという感覚が強まっています。結果的に先輩看護師たちがそのしわ寄せを受けてしまい、職場の負担感が増してしまうというジレンマが生じています。

診療報酬の問題と医療機関の厳しい現状

診療報酬という制度の問題について説明します。医療機関は診療報酬という公定価格によって収入を得ていますが、この診療報酬は人件費や物価の上昇に十分に対応できていません。そのため、病院が増加する人件費を診療報酬でカバーするのが難しくなっています。

特に、近年は人件費以外にも材料費や光熱費などの費用も大幅に上昇しています。そのため、事業費用が増えても、診療報酬がそれに追いつかず、病院経営はさらに厳しくなっています。この状況では、病院は人件費を増やしたくても増やせないというジレンマに陥っています。

事務職員の賃上げ問題

さらに病院経営の課題として、事務職員の賃上げが挙げられます。2024年度の診療報酬改定では、医療職のベースアップ評価が検討されていますが、事務職員はその対象外となっています。そのため、多くの病院では事務職員の給与を引き上げる財源がなく、事務職員の採用が難しくなっています。

事務職員が不足すると、医療職が本来の業務に集中できなくなり、さらに現場の負担が増すことになります。この事務職員の採用難は、今後病院経営をさらに厳しくさせる可能性があるため、大きな問題として注目されています。

まとめ

以上のように、看護師の給与や職員数は増加傾向にありますが、病院経営の人件費負担は非常に大きくなっています。また、新卒看護師の離職防止策としての教育体制の変更や病欠率の増加が、実際には現場の人手不足感を強める結果になっています。加えて、診療報酬制度の制約により、医療業界全体の賃上げが難しくなっています。さらに事務職員の賃上げ問題が新たな課題として浮上しており、病院経営の持続可能性に関しても懸念が深まっています。