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はじめに:「看護・多職種協働加算」の新設
本記事で取り上げますのは、対象病院の収益構造を激変させる可能性を秘めた新設の「看護・多職種協働加算」です。
前回の「重症度、医療・看護必要度の見直し」に続き、今後の病院運営、そして病棟の収益構造に直結する非常に重要なテーマとなります。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
【出典資料】 本動画は、厚生労働省より公表された以下の資料を基に作成しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
(中央社会保険医療協議会 総会 資料より)
届け出られるかどうかで収益構造が激変する
まず大前提として押さえておいていただきたいのが、この看護・多職種協働加算を届け出られるかどうかによって、対象病院の収益構造が大きく変わるということです。
この加算は、急性期病院B一般入院料と急性期一般入院基本料4を届け出ている病院様が検討できるものです。

そして加算を届け出た場合、各入院基本料の引き上げ分と物価対応料を合わせると、入院基本料の序列がここまで大きく変化します。

具体的には、急性期病院Bが看護・多職種協働加算を届け出ると、急性期一般入院基本料1よりも点数が高くなります。また、急性期一般入院基本料4が看護・多職種協働加算を届け出ると、急性期一般入院基本料2と同じ点数、急性期一般入院基本料2や3よりも合計点数が高くなるという構図です。
「下位の区分が上位の収益を凌駕する」という逆転現象がまさにここで起きるわけで、今回の改定の中でも最も注目すべきポイントの一つです。
現在、急性期一般入院基本料1を届け出ている病院様にとっても、急性期一般入院基本料2・3を届け出ている病院様にとっても、この逆転現象は自院の収益力の相対的な位置づけに影響します。さらに、現在急性期一般入院基本料2・3を届け出ている病院様の中には、「あえて急性期一般4に下げて看護・多職種協働加算を取りにいく」という戦略が現実的な選択肢になり得る病院様もあるかもしれません。自院の施設基準の充足状況と照らし合わせながら、シミュレーションしてみる価値があります。
なぜこの加算が新設されたのか:労働力不足時代の生存戦略
この看護・多職種協働加算が新設された背景には、看護師不足をはじめとする医療現場の労働力不足があります。生産年齢人口が今後さらに減少していく中、看護師単独での病棟運営はいよいよ限界を迎えてきています。
そこに理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・臨床検査技師・管理栄養士といった多職種が病棟に配置されることで、より専門的な治療やケアの提供が可能になり、患者さんのADLの維持・向上・促進にもつながります。このタスク・シェアリングとチーム医療の推進を新たに評価する仕組みとして設けられた加算です。

看護師の数だけで病院の機能を維持しようとする時代は終わり、多職種が連携して急性期医療を支えていく体制へのパラダイムシフトを、診療報酬の側から後押しする、そういう意図が今回の加算設計に読み取れます。単なる点数上乗せではなく、これだけ高い施設基準が設定されているのも、そのような理由からだと思います。
また、病院にとっても看護師の採用難が続く中、看護師だけに業務を集中させない体制を評価することで、多職種のスキルアップと業務分担を促していくという側面もあります。これは医療の質の向上という観点からも、現場が疲弊しないための人材活用という観点からも、方向性として理にかなっていると思います。
点数のインパクト:入院期間中ずっと算定できる可能性
まず点数面からお伝えすると、看護・多職種協働加算の1日あたりの点数は非常に大きなものとなっています。急性期一般入院基本料4に届け出る場合は277点、急性期病院Bに届け出る場合は255点という水準です。

そして短冊を読む限りでは、「1入院あたり初日のみ」や「14日間に限る」といった記載がありませんので、入院期間中ずっと1日につき加算されるものになってくるのではないかと思います。この点は告示でしっかり確認していく必要がありますが、もしそうであれば非常に高い収益性を持つ加算となります。1日255点や277点という点数が入院期間中ずっと加算されるとなれば、平均在院日数が例えば14日の患者さんであれば1入院あたり数千点単位の追加収益につながります。病床稼働の状況にもよりますが、年間ベースで見ると相当大きなインパクトがある加算です。
届け出るための3つのハードル
では、この加算を届け出るためには何が必要でしょうか。施設基準の観点から「体制」「重症度」「効率性」という3つのハードルを確認していきましょう。おそらく病院様によってどのハードルが一番高いかは異なると思いますので、それぞれを自院の現状と照らし合わせながら読んでいただければと思います。

ハードル1:人員配置25対1相当の多職種配置
まず人員配置についてです。この加算を届け出るには、10対1の看護師配置に加えて、10対1を超えて配置されている余剰分の看護師と、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・臨床検査技師・管理栄養士などの医療職種を合わせて25対1相当以上で配置することが必要です。また、医師の配置については急性期一般入院基本料1と同等のものが求められます。

様式9の記載がかなり複雑になることが予想されますので、事務部門との連携をしっかりとって、配置の実態を把握しておく必要があります。
この多職種配置という要件は、「看護師だけでなく他の医療職種も病棟業務に本格的に関与させる」という制度の趣旨に直結しています。すでに多職種が病棟業務に深く関わっている病院様にとっては比較的クリアしやすい要件かもしれませんが、従来リハビリ室や外来中心に多職種を配置してきた病院様にとっては体制の見直しが必要になってくるかもしれません。
この加算の名称が「看護・多職種協働」とあるように、看護師と他職種が対等に協働して病棟を運営する体制が求められています。例えば理学療法士が病棟に常駐してリハビリだけでなく早期離床の支援を行う、管理栄養士が病棟回診に参加して栄養管理を担う、といったより踏み込んだ多職種連携の形を実現している病院様が評価される設計と言えます。現状でも多職種連携に力を入れている病院様は、改めて配置の実態を整理・確認してみてください。
ハードル2:看護必要度は急性期一般入院基本料1と同等の基準
おそらく最もハードルが高くなってくるのが、重症度、医療・看護必要度の基準です。看護・多職種協働加算を届け出るためには、改定後の急性期一般入院基本料1と全く同じ水準の基準を満たす必要があります。

具体的には看護必要度2で、割合1が27%以上、割合2が34%以上という基準です。これは急性期一般入院基本料4や急性期病院Bの現行基準よりも大幅に高い水準です。「この加算は急性期一般4と急性期病院Bが対象のはずなのに、なぜ急性期一般1と同じ看護必要度が求められるのか」と感じる方もいると思いますが、それだけ高い重症度の患者さんを診ていることが前提の加算だ、というのがこの制度設計の意図です。
ただし、前回の記事でご説明した通り、今回の改定では救急患者応需係数が新設されています。この係数を使えば、現状の看護必要度の実績値にプラスすることができますので、救急搬送件数を多く受け入れている病院様は「基準を満たせないかもしれない」と諦める前にぜひ係数を試算してみてください。係数が加わることで基準に届く可能性がある病院様は、思っているよりも多いと思います。加えて、重症度、医療・看護必要度の見直しによる、A項目・C項目への新規項目追加、つまり抗悪性腫瘍剤の使用や救命に係る内科的治療の追加によって、がん治療や内科救急に強い病院様であれば看護必要度の実績値が底上げされる可能性もあります。この2つの効果を合わせて試算してみることをお勧めします。
ハードル3:平均在院日数16日以内と退院割合
もう一つのハードルが、平均在院日数16日以内と自宅等への退院割合の基準です。

特に急性期一般入院基本料4を届け出ている病院様の患者構成を考えると、退院が延長しがちな症例が多かったり、周辺施設の状況や地域特性の関係でなかなか退院できない患者さんが多かったりというケースがあります。そういった病院様にとっては、平均在院日数16日以内というのはなかなか厳しいハードルになってくるかもしれません。現在の在院日数の実績が18日から20日台という病院様も多いと思いますので、そこから16日以内に縮めるためには退院支援の強化や病床運用の工夫が必要になってきますし、稼働率への影響も出てくる可能性があります。
一方で、退院支援の仕組みが整っていて在院日数の管理が進んでいる病院様、あるいはもともと在院日数が短い患者層が多い病院様にとっては、それほど高いハードルにはならないかもしれません。自院の直近の平均在院日数の実績をまず確認してみてください。
自宅等への退院割合については、地域包括ケア病棟等の在宅復帰率とは計算式が異なりますので、確認が必要ではありますが、現行の急性期一般入院基本料1と同じ考え方で良いのではないかと思います。こちらは多くの病院様にとってそれほど高いハードルにはならないのではないかと踏んでいますが、告示でしっかり確認してから対応方針を決めていただければと思います。
まとめと今後の展望
以上が、今回の令和8年度の診療報酬改定で新設される「看護・多職種協働加算」の内容となります。
改めて要点を整理いたしますと、看護・多職種協働加算は急性期病院Bや急性期一般入院基本料4の収益性が飛躍的に高まる非常に強力な新設評価です。現在の入院基本料の区分に関わらず、この加算の届出が狙える可能性がある病院様は、ぜひ一度検討をしてみてください。施設基準の3つのハードル、すなわち25対1相当の多職種配置、看護必要度の高い基準、そして平均在院日数16日以内という項目のうち、どれが自院にとってどの程度の難易度かを、シミュレーションを通じて把握した上で判断していただければと思います。

今回の改定は、多職種の専門性を結集させることで急性期医療を今後も維持していくための生存戦略として位置づけられる改定です。対象となり得る病院様にとっては、今後の経営の方向性を左右する重要な判断になってきますので、自院の強みをしっかりと活かし、正確なシミュレーションを行うことが、今後の病院経営において極めて重要になってくると言えるでしょう。

3月5日に正式な告示が出る予定になっております。正確な情報が出てきて、もし私の解釈に誤りがあった場合には、速やかに訂正をさせていただきます。常に最新で正確な情報を皆様にお届けできるよう努めてまいります。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

