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はじめに
皆さん、毎日の業務、本当にお疲れ様です。
現在、各医療機関の皆様におかれましては、診療報酬改定へのご対応で大忙しのこととお察しいたします。
本記事では、皆様の関心も非常に高いであろう「ベースアップ評価料」について、一緒に見ていきたいと思います。今回は主に入院領域、「入院ベースアップ評価料」を中心に取り上げて解説を進めてまいります。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001673286.pdf
賃上げ・物価対応に係る全体像
では早速ですが、今回の改定における大きなテーマである「賃上げ・物価対応に係る全体像」から整理していきましょう。基本的な考え方として、賃上げへの対応が非常に強く打ち出されています。

具体的には、今回のベースアップ評価において、2ヵ年という期間をかけて対象職員の皆様に「3.2%」の賃上げを目指すという明確な目標が設定されることになりました。さらに注目していただきたいのは、看護補助者と事務職員の方々に関する目標値です。この2職種については、より高い目標である「5.7%」という水準が設定されています。この3.2%の賃上げは、まず令和8年度に3.2%、令和9年度に3.2%とそれぞれ引き上げられるという目標になっており、2年で6.4%の賃上げを目指すということになります。
ここで少し過去の推移も振り返り、全体的な数字の流れを考えてみたいと思います。前回の令和6年度の診療報酬改定では、令和6年度に「プラス2.5%」の賃上げを目指し、続く令和7年度には「プラス2.0%」の賃上げを目指すという目標が掲げられていました。過去の目標であった2.5%、2.0%、そして今回の3.2%、次年度の3.2%という数字を単純に足し合わせて計算してみますと、この4年間で、令和5年度と比較して合計「10.9%」の賃上げ達成を目標としているという、国としての非常に大きな枠組みが見えてきます。
なお、本日は物価対応に関する詳細なご説明については割愛させていただきます。物価対応につきましては、また別の機会に詳しくご説明させていただきます。
令和8年度改定における賃上げに関する4つの要点
今回の令和8年度の診療報酬改定における、賃上げに関する重要なポイントについて整理していきます。今回、医療従事者の皆様の処遇改善を最大の目的として、評価体系全体が大きく再編されることとなりました。継続的な賃上げ実施の有無による評価の差別化が行われたり、入院基本料の増減算規定が新設されたりと、過去の制度よりもさらに実効性の高い賃上げスキームへと移行したと言える内容になっています。
要点としては、大きく以下の4つに絞られます。

1つ目は、ベースアップ評価料の対象となる職員の枠が拡大したことです。 2つ目は、賃上げの実績に応じた「2段階評価」が導入されたことです。3つ目は、入院基本料の引き上げが行われると同時に、継続的な賃上げを未実施の場合に関する厳しい減算規定が設けられたことです。 そして最後の4つ目は、これまで基本給等に限られていたベースアップ評価料が、新たに「夜勤手当の増額」への充当も可能になったことです。
これら4つのポイントが、今回の制度変更の根幹をなしています。単なる評価料の付与ではなく、継続的な賃上げを前提とした制度設計に変化している点が特徴と言えるでしょう。
令和6年度改定の復習と、そこに潜んでいた「落とし穴」
今回の改定を深く理解するために、ここで前回の令和6年度の診療報酬改定について復習をしておきましょう。なぜなら、前回の制度には経営面で大変大きな「落とし穴」とも言える問題が潜んでいたからです。

前回の改定で国は、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%、合計4.5%の賃上げを目標として設定しました。その際の入院ベースアップ評価料の計算式は、「対象職員の給与総額に対するプラス2.3%」の数字が、ベースアップ評価料として病院に入ってくるという構造になっていました。病院側は、その入ってきた2.3%の原資を使って職員様への賃上げを実施するというスキームだったわけです。

まず令和6年度は、令和5年度に対して2.3%の賃上げを実施しました。しかし、大きな問題は令和7年度の状況にあります。令和7年度に関しては、過去である令和6年度に引き上げた2.3%の賃上げ分に加えて、令和7年度分の新たな2.3%を職員に支払っているという状態になります。
しかし、この計算式の通り、病院の収入としてベースアップ評価料で入ってくるのは、あくまでも「2.3%分だけ」なのです。この結果どうなるかというと、実質的に令和7年度においては、令和6年度に引き上げた2.3%分の人件費が、そのまま「病院の持ち出し」になってしまっているという厳しい状況が発生していました。根本的な計算構造としての課題があったことは否めません。
持ち出し問題を解消する令和8年度の設計と厳しい減算ルール
おそらく国も、その前回の反省点を踏まえて熟考した結果、今回の令和8年度の改定をこのような形にしたのだと考えられます。
先ほどお伝えした通り、令和8年度と令和9年度のベースアップ評価料は「2段階」の設計となっています。令和8年度に3.2%の賃上げを行い、そして令和9年度に同じくさらに3.2%の引き上げを行うことになります。それに伴って、ベースアップ評価料の点数は「倍になる」という設計がなされました。こうすれば「令和8年度分は令和9年度分にベースアップ評価料としてしっかりと入ってくるでしょう」という持ち出しを防ぐための設計になっています。
令和8年度分と令和9年度分の賃上げについてはこの新しい仕組みで良いとして、では、令和6年度と令和7年度に引き上げてしまった「4.6%分」の負担はどうなるのかという話になってきます。
実は今回、そこをしっかりと踏まえて「入院基本料を引き上げますよ」ということになっています。入院料ごとの入院ベースアップ評価料の平均的な水準をもって、入院料を増点したという明確な説明がなされています。
そしてここで非常に重要なのが、令和6年度と令和7年度でベースアップ評価を行っていない医療機関については「減算しますよ」という厳しいルールが設定されたことです。つまり、今回の入院基本料の引き上げは、あくまで令和6年度と令和7年度に引き上げた分の4.6%分をしっかりとカバーするために行われているものです。したがって、過去に賃上げを行っていない病院様は「その引き上げ分を受け取る資格はないですよね」という理屈に基づいた設計になっているということです。
具体的な点数の変化と、経営上の重要な留意点
それでは、今回改めて点数としてはどのように変化したのかを見ていきましょう。今回、入院ベースアップ評価料は、これまで1点から165点だったものが、1点から250点へと引き上げられました。そして令和9年6月以降は500区分となり、つまりそれぞれが実質的に倍の点数になるという設計になっています。入院基本料につきましても大きく変化し、例として「急性期一般入院基本料1」は、1688点だったものが改定後は1874点になるということになります。

国はこの増点によって過去の人件費増加分をカバーすると説明していますが、私自身はここには経営上、少しだけ落とし穴があるかなと思っております。
詳細な計算シミュレーションの過程はここでは割愛いたしますが、重要な結論をお伝えしますと、「固定費」と「変動収益」の性質の違いがポイントになります。
賃上げによって増えた人件費分というのは、患者さんの数が減ったとしても基本的には支払わなければならない「固定費」の増加を意味します。

それに対して、今回過去の賃上げ分をカバーするために用意された「入院基本料の増点分」という収益は、日々の患者数や稼働率に完全に依存する「変動収益」です。
仮に稼働率100%を常に維持できる病院であれば、この増点分で人件費の増加を余裕でカバーできる計算になります。しかし、現実的に稼働率が85%程度に落ち着いた場合などを想定すると、得られる増収分は目減りしてしまいます。つまり、ベースアップ評価料という直接的な補助ではなく「入院基本料の増点」で人件費増を補うという今回の構造は、病院様の稼働率によって収益性が全く異なってくるという事実を示しています。

固定費の増加を変動収益で賄うというリスク構造になっている点は、経営上の一つのハードルとして一応頭に入れておく必要がある改定だと言えます。

実務的な話:計算方法の変更点
ここからはより現場の実務的な話に入っていきます。ベースアップ評価料の計算方法の変更点についてです。前回の改定では、単純に対象職員全体の給与総額に2.3%をかけるというような形でしたが、令和8年度の変更点は大きく分けて3つ存在します。

まず1つ目は、職員の区分けです。今まで一括りだった職員が、「対象職種」と「看護補助者」、そして「事務職員」に分けられました。あとは「40歳未満の医師等」も分かれているという状況になっています。ここで特に注目するべきは、看護補助者と事務職員についてです。ここ2職種に関しましては、5.7%という非常に高い賃上げを目標として設定されています。その他の職種に関しましては3.2%(次年度と合わせて6.4%)、看護補助者と事務職員に関しては5.7%(次年度と合わせて11.4%)となり、これらと40歳未満の医師等のそれぞれを足したものが「賃金改善算定基礎額」というものになります。
2つ目は、「1.29」という係数の導入です。この1.29の係数は、事業者が負担する経費等を踏まえたものです。具体的には、法定福利費ですとか、変動する賞与などの事業主負担分ですね。国は今回、賃上げをした際に発生する社会保険料などの「跳ね返り分の負担」についてもしっかりと考慮し、それらの負担分も掛けてベースアップ評価料の原資に乗せてあげるという計算式にしてきてくれました。やはり、過去の賃上げをした時の病院サイドの持ち出し問題という点が、ここでもしっかりと活かされて配慮されている状況かなと思います。
そして3つ目、非常に大きな変更点として、夜勤手当の増額がこのベースアップ評価料の対象になりました。今までは、評価料で得た収入は基本給や、それに連動して支払われる手当の引き上げ等にしか使うことができませんでした。しかし今回からは、夜勤を含む交代勤務制をとっている職場の「夜勤手当の増加額」についても、このベースアップ評価料の実績として認めると明記されました。基本給と一律に上げるだけではなくて、夜勤という負担の大きい業務を頑張ってくださっているスタッフの手当を厚くすることができるというのは、現場の実態に即した非常に良い改定ではないかと個人的には強く感じているところです。
事務手続に関する変更点
最後に、事務手続に関する変更点のご説明となります。
まず一つ大きなトピックとして、今までは「賃金改善計画書」というものを提出しなければならなかったのですが、これが今回からは不要になりました。届出時に関しましては「算定回数や延べ入院患者数、賃金総額や対象職員数などを入力すれば届出が完了しますよ」という形になりました。
また、区分変更時の届出ルールについても、「再計算をした場合に、区分の変動が1割以上ある場合には区分変更の届出が必要ですよ」という形になったようです。これがおそらく少し手続自体は楽になったということなんではないかなと推測しております。
ただ、手放しで喜べない理由もあります。なぜなら、今回新たに「中間報告等」というものがスケジュールの間に入ってくるからです。

例えば、今回6月1日にベースアップ評価料の届出をしたとします。そうすると、8月に1回中間報告をすることになります。そしてこの時点で、昨年度の実績報告書を提出するという流れになります。さらに、令和9年度の6月1日時点で点数が倍になるという関係上、必ずここで改めての「届出が必要」になってくるというのと、付随して9月の時点での中間報告書を同時に提出するというような形になってきます。
つまり、提出する賃金改善計画書がなくなったけれども、中間報告書の提出スケジュールが厳しく(複雑に)なったということになるかと思います。そう考えると、事務手続き上、そこまで劇的に簡素化されたわけではないのかなという印象も受けました。いま資料を読み込んでいる限りではありますが、ただそこも含めましてこのような変更が手続上に入ったという点、まずは押さえておいていただければと思います。
おわりに
本日は診療報酬改定におけるベースアップ評価料、その中でも特に「入院ベースアップ評価料」を中心にご説明をさせていただきました。
制度の細かな部分につきましては、今後、厚生労働省から疑義解釈等も出てくると思います。今現在お伝えできる最新の考察と情報としてはこのような形かなと思っております。万が一、情報に誤り等があれば、また随時修正や追加の発信としていければと思っております。
本記事が少しでも皆様のお役に立てたなら幸いです。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

