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はじめに:変革の波が押し寄せる医療現場
本記事は、令和8年度の診療報酬改定において非常に大きな注目を集めている「医師事務作業補助体制加算」の見直しについて、先日発表されました疑義解釈その2の内容も交えながら見ていきたいと思います。
今回の診療報酬改定全体を貫く大きなテーマとして、医療従事者の働き方改革と業務負担の軽減が挙げられます。そして、その実現のための強力なツールとして位置づけられているのが、ICT機器や生成AIの活用です。これまでも看護職員等の配置基準において柔軟化の動きは見られましたが、今回の改定ではついに、医師事務作業補助体制加算に関しても、ICT機器等の活用による「人員配置基準の柔軟化」という踏み込んだ内容が盛り込まれました。
医療現場は今、深刻な人手不足と業務の高度化・複雑化という二重の課題に直面しています。特に、医師の働き方改革を推進する上で、医師の事務作業を強力にサポートする医師事務作業補助者(病院様によってはクラークさん、病棟クラークさんなど様々な呼び方があります)の存在はますます重要になっています。しかし、その人材を十分に確保することは容易ではありません。
だからこそ、「ICT機器等の活用による医師事務に係る業務効率化、負担軽減等の業務改善推進の観点から、人員配置基準を柔軟化する」という今回の方針は、多くの医療機関にとって朗報であり、同時に対応を急がなければならない重要な経営課題でもあるのです。本日は、この複雑な要件を一つ一つ解きほぐし、明日からの病院運営に直結する実践的な情報をお届けしてまいります。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
【参考資料・出典情報】 本動画の解説は、厚生労働省公開の以下の資料に基づいています。
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001693568.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001689076.pdf
人員配置基準の柔軟化とは? 1.2人・1.3人算入の仕組み
まず、今回の改定の目玉である施設基準の見直しについて、具体的な内容を確認していきましょう。

これまで、医師事務作業補助体制加算を算定するためには、病床数に対して厳格に定められた人数の医師事務作業補助者を配置する必要がありました。しかし今回の改定により、一定のICT機器等を組織的に導入し、日常的に活用することで、実際に配置されている医師事務作業補助者1人を「1.2人」、あるいは要件を満たせば「1.3人」として配置人数に算入することが可能になりました。
これは、言い換えれば「ICTの力で業務効率を上げているのだから、少ない人数でも従来の基準以上の働きをしていると評価しましょう」という国からのメッセージです。
では、具体的にどのような条件を満たせば、この「1.2人」や「1.3人」という恩恵を受けられるのでしょうか。施設基準には大きく分けて「ア」から「エ」までの要件があり、その中でも中核となるのが「ア」の要件です。これは、医師の事務作業に関して特定のシステム等を組織的に導入し、医師および医師事務作業補助者が日常的に活用することで業務効率化が図られていることを求めています。この中には4つの選択肢が提示されています。
1.2人算入と1.3人算入の違いと必須条件
ここが非常に重要なポイントなのですが、4つの選択肢のうち、①は「必須条件」となっています。
①生成AIを活用した医療文書等の文書作成補助システム
つまり、1.2人であれ1.3人であれ、人員配置の柔軟化を狙うのであれば、この「生成AIを活用した文書作成補助システム」の導入は避けて通れないということです。医療現場における生成AIの活用がいよいよ本格的に診療報酬上で評価される時代に突入したことを象徴しています。
この①の必須条件のみを満たしている(かつ、後述するイからエの要件をすべて満たしている)場合、医師事務作業補助者1人を「1.2人」として算入することができます。
そして、さらに踏み込んで1人を「1.3人」として算入するためには、①の必須条件に加えて、以下の②から④のうち「少なくとも1種類以上」を導入し、活用している必要があります。
②医療文書等への入力を行う医療文書用の音声入力システム(汎用音声入力機能は除く)
③医療データ等の典型的な入力作業等を自動化するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)
④入退院時の説明や検査処置等に関する10種類以上の患者向け説明動画
皆様の病院では、どの組み合わせが最も現実的で、かつ現場の負担軽減につながるでしょうか。②の音声入力システムや③のRPAについては、定型業務の自動化に威力を発揮しますが、システム導入等が必要になりハードルを感じるケースも少なくありません。私が今回の動画を撮る前に調べた際にも、ここ1、2年の医療機関でのRPAの具体的な活用事例については、まだこれから情報収集が必要だと感じたところです。
導入の最適解?「患者向け説明動画」のメリット
そこで、私が個人的に、そして実務的な観点から最も注目し、皆様にお勧めしたいのが、④の「入退院時の説明や検査処置等に関する10種類以上の患者向け説明動画」の活用です。
弊社では、この加算要件が設定される以前から、患者様への説明業務の負担軽減に着目し、様々な病院様と一緒に説明動画を企画・作成し、ご提供させていただいておりました。今後こういったご要望がある場合には、弊社としても動画作成のお手伝いをさせていただければと思っております。
なぜ動画が良いのでしょうか。それは、医療現場における「説明」という業務がいかに大きなウェイトを占めているかを考えていただければお分かりいただけると思います。これを視覚的で分かりやすい動画に置き換えることで、以下のような絶大なメリットが生まれます。
第一に、スタッフの業務時間の大幅な削減です。動画を作っていれば、看護師さんだけではなく医師事務作業補助者の方が患者様にお見せすることによって、説明の手間が省けます。まさに医師事務作業補助者の業務負担軽減という今回の改定の趣旨に直結します。 第二に、説明の質の標準化です。人によって説明の詳しさやニュアンスが変わってしまうことを防ぎ、すべての患者様に一定の質の高い情報提供が可能になります。 第三に、患者様の理解度向上です。口頭で伝えるよりも、視覚的に分かりやすい説明になる可能性が高く、患者様の不安を取り除くことにつながります。
もし、この④の要件を満たすために動画の導入をご検討されている病院様がいらっしゃいましたら、弊社がこれまで培ってきたノウハウを活かし、最適な動画作成のお手伝いをさせていただきます。音声入力やRPAの導入にハードルを感じている医療機関様にとって、この「動画活用」は、最も手軽に始められ、かつ現場の負担軽減効果を実感しやすい、「1.3人」算入への最短ルートになるのではないかと確信しています。
安全と信頼を守るための要件(イ〜エ)と研修の重要性
さて、ICT機器や動画を導入すればそれで要件クリア、というわけではありません。医療という人の命と直結する分野において、新しい技術を導入する際には、安全性の確保が最優先されます。そのために、施設基準には「イ」から「エ」の要件が定められています。
イの要件は、電子カルテ等と連動して医療情報を取り扱うシステムについて、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン等」に準拠していることを求めています。
ウの要件は、AI技術を用いる製品・サービスについて、「AI事業者ガイドライン」が遵守されていることです。
そして、非常に実践的で重要なのが、エの要件です。これは、すべての医師事務作業補助者に対して、操作方法だけでなく「生成AIの適切な利用に関する研修」を実施し、常時適切にシステムを使いこなせる体制を整備することを求めています。
この「生成AIに関する研修」については、疑義解釈その2で非常に具体的な内容が示されました。

医療分野における生成AIの特徴、そして何より「利用時のリスク」について深く理解しておくことが求められています。 具体的には、ディープフェイクの危険性、生成された情報の正確性や信頼性、バイアス、公平性、透明性、説明責任など、AIの持つ負の側面や限界についても教育しなければなりません。研修は年1回程度定期的に開催し、記録を残すことも義務付けられています。なお、研修の実施に際しては、非営利法人医療AIプラットフォーム技術研究組合が公開している医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドラインの資料を活用することとして差し支えないとされています。
私自身もAIを日常的に使用していて痛感するのは、「AIの出力結果を鵜呑みにしてはいけない」ということです。AIが生成した内容に手直しが必要ないとは言い切れない場面が多々あります。特に医師事務作業補助者の方々は、医療の国家資格を持っているわけではないケースも多いため、AIが生成した内容を正確に評価するためのスキルや体制づくりが、非常に重要になってきます。AIはあくまで強力な補助ツールであり、最終的な責任と判断は人間が担うという原則を、研修を通じて現場の隅々まで浸透させることが成功の鍵を握るでしょう。
医師事務作業補助者の業務範囲の明確化
今回の改定では、人員配置の柔軟化だけでなく、医師事務作業補助者が実施可能な「業務範囲」についても、より明確に明文化されました。

これまでの内容に加え、診療情報提供書(返信)、診療サマリー、診療計画書、検査オーダー、食事オーダー、クリニカルパス、地域連携パス、さらには患者や家族への説明文書の準備・作成、診療録や画像・検査結果等の整理、そしてその他入力作業など、非常に多岐にわたる具体的な業務名が列挙されています。
これは、医師事務作業補助者の方々が担うべき役割が医療現場でどれほど広く、重要になっているかを示しています。業務範囲が明確化されたことで、病院側もどこまで業務を委譲してよいのかが分かりやすくなり、院内での共通認識が持ちやすくなりました。これら多岐にわたる業務を効率的にこなすためにこそ、生成AIや音声入力、RPAといったICTツールが不可欠になってくるのです。
驚きの効果!200床病院のシミュレーション
では、この1.2人、1.3人という配置基準の柔軟化が、実際の病院経営にどのようなインパクトを与えるのでしょうか。簡単なシミュレーションを用いてご説明いたします。

ここに、病床数200床の病院様があると仮定します。 現在、この病院様が「25対1」の配置基準で医師事務作業補助体制加算の届出をしているとします。200床を25で割ると8となりますので、最低でも「8人」の医師事務作業補助者が配置されている状態です。
ここで、この病院様が先ほどの要件を満たし、スタッフ一人一人を「1.3人」として算入できるようになったとします。 現在配置されている8人を1.3倍すると、「10.4人」となります。 医師事務作業補助体制加算の基準には、25対1の上位に「20対1」という区分があります。お分かりいただけるでしょうか。実際の雇用人数は8人のままであっても、ICT機器を活用して1.3人算入の特例を受けることで計算上の配置人数が10.4人となり、なんと現在のスタッフ人数のまま、ワンランク上の「20対1」の施設基準へと届出をランクアップさせることができる可能性があるのです。
同様に、現在「30対1」の届出をしている場合も、1.3人算入ができれば9.1人となり、ひとつ上の25対1の届出が可能になる可能性があります。また、「50対1」の届出をしている場合、必要な人数は4人ですが、これが1.3人算入となれば「5.2人」としてカウントされます。50対1の上の区分である40対1を満たすために必要な人数は5人ですから、ここでもやはり、人数を増やすことなくワンランク上の加算を取得できる計算になります。
人材採用が極めて困難な現在の状況下において、今いるスタッフの努力とICTの力で上位加算を狙えるというこの仕組みは、病院経営において極めて魅力的であり、積極的に検討すべき大きな経営戦略の一つと言えるでしょう。
疑義解釈その2から読み解く、実践へのハードルと対策
先日発表された疑義解釈その2では、この加算を取得するための非常に細かい線引きが明らかになりました。現場で導入を進めるにあたって、絶対に知っておくべきポイントをいくつかピックアップして解説します。
まず、「日常的に活用する」という言葉の定義です。疑義解釈によれば、生成AIシステムや音声入力システムについては、「医師または医師事務作業補助者の過半数が、当該システムを少なくとも毎週使用していること」という明確な基準が示されました。過半数のスタッフが毎週使うような、現場の業務フローに完全に組み込まれたシステムであることが求められます。
次に、RPAについてです。これも厳しい基準があり、「診療サマリーやデータベースへの入力等の医師事務作業補助者が行うことのできる業務のうち5業務以上に活用され、毎年追加されていること」が条件となっています。
そして、弊社としても推奨している「患者向け説明動画」の活用についても、具体的なハードルが設定されました。「1日あたりの使用回数が、外来を含めて一般病床数の概ね15%以上(療養・精神病床は5%以上)であること」という目安が示されたのです。

さらに、動画の種類についても指定があります。「入退院時の説明」「検査・処置」「麻酔・鎮静」「手術・インフォームドコンセント」「医療安全・感染対策」などの各領域の中から、少なくとも「3つの領域」にまたがる説明動画が、合計10種類以上用意されている必要があります。

また、ICT機器を活用して配置人数を算入する場合、それぞれの配置区分ごとに5割以上、「3年以上の医師事務作業補助者としての勤務経験を有する医師事務作業補助者」が配置されていることを満たす必要があります。ICT機器を使うからこそ、土台となる経験者の存在が前提となるということです。

おわりに:ICTを活用し、人が人に向き合える医療現場へ
ここまで、令和8年度の診療報酬改定における医師事務作業補助体制加算の見直しについて解説してまいりました。 「1.2人」「1.3人」という数字の背後にあるのは、医療現場のDXを待ったなしで進めよという国からの強い要請です。
私が最近コンサルティングに入らせていただいていても、ICT機器等の活用はすごく活発な話題になってきています。補助金等も用いながら導入できる機器等に関しては、今は積極的に検討して導入していくタイミングかなと思います。値段的な問題や、種類が増えすぎてどれを使うべきかという悩みもあるかと思いますが、今後ICT機器の活用はどんどん促進されていくでしょう。
生成AI、音声入力、RPA、そして患者向け説明動画。こうしたICT機器は、単に加算を取るための道具ではありません。医療従事者を過酷な事務作業から解放し、より分かりやすい説明を実現するための強力なパートナーなのです。 特に、患者向け説明動画の導入は、効果の大きさのバランスが優れている施策だと私は確信しています。弊社としても、これまで培ってきた動画制作のノウハウをフル活用し、皆様の病院の業務改善と、新しい施設基準のクリアに向けた取り組みを全力でサポートさせていただく所存です。制度の変化を前向きに捉え、より良い医療提供体制を構築するためのチャンスとして、一緒に前に進んでいきましょう。
本記事が、皆様の病院経営や現場の業務改善の一助となれば幸いです。
ご拝読いただき、誠にありがとうございました。
何かご質問や、動画制作に関するご相談などございましたら、お気軽にご連絡ください。

