この4月、私は38年間務めてきた看護師というキャリアに区切りをつけ、医療コンサルタントという全く新しい世界に飛び込みました。
38年。人生の半分以上の時間を病院という組織、そして患者様の命と向き合う現場で過ごしてきました。看護師としての経験や知識、医療現場のリアルな空気感にはそれなりの自負がありましたし、管理的立場や経営企画室での経営改善の経験を活かして、「今度は同じような経験をされている医療機関を支えるのだ」と強い意気込みを持って入社しました。
……というお話は、前回のブログで書いたかも知れません。
しかし、入社して数か月。私は、人生で最大の「壁」にぶつかることになりました。
知識が足りない、診療報酬の解釈が難しい、PCスキルが追いつかない……そういった技術的な問題もさることながら、何よりも私を苦しめたのは、コンサルタントが持つ「思考のプロセスそのものの違い」だったのです。
今回は、私がこの数ヶ月を通じて学んだ「看護師の思考」と「MBA・コンサルタントの思考」の決定的な違い、そして未経験業界で生き抜くための葛藤についてお話ししたいと思います。
Contents
第1の壁:「現在進行形」と「未来からの逆算」
コンサルタントになって最も困惑したのが、「準備の段階で、何を目的に、どこに到達させるためにどう展開しようとしているのか、その『ゴール』が見えない」ということでした。
その時の私(今も混迷していますが…)は、「今回のクライアント面談では、この診療報酬の改定項目について話そう」という、いわば「テーマ(手段)」しか用意できていませんでした。 しかし、本来果たさなければいけなかったものは、「この面談が終わった時、クライアントの院長や看護部長に、具体的にどんな行動や意思決定をしてもらいたいのか」という「ゴール(目的)」であり、そのネクストステップとして「コンサルの自分はどのような役割を果たし、どう行動するつもりなのか?」を明確にすることだったのです。
なぜ、私は最初からその「逆算」ができなかったのか。深く悩んだ末に気づいたのは、看護師として38年間磨き続けてきた「即応の思考」の存在でした。
看護師の戦場は「今、この瞬間」です。
「目の前の患者様のバイタルが急変した」
「今、苦しんでいる」
その時、私たちは1秒単位の時間軸で動きます。起きている事実に対して、その場で瞬時にアセスメントを行い、今できる最善の処置を迷わず実行する。これが私が生きてきた仕事のスタイルであり、命を守るための絶対的な思考ルールだった訳です。
一方で、経営学やMBAをベースに持つコンサルタントの戦場は「未来」です。(これはAIのGeminiに聞いて教えてもらいました!)
「3年後にこの病院を黒字化する」
「1年後に看護師の離職率を5%下げる」
まず動かない確固たる未来のゴール(目標)をカチッと決め、そこから時間を現在へと引き戻し、「じゃあ、今日の面談では何を合意すべきか」を逆算して組み立てる。
「今、起きていることに全力で対処する」という現在進行形の脳で凝り固まった私にとって、「まだ見ぬ未来から逆算して、今日の1時間をデザインする」というコンサル思考は、まるで使ったことのない筋肉を急に激しく動かされるような衝撃でした。
勿論、看護計画を立案する時は目指すべき姿を描き、行動計画を描く訳ですが、相手の変化に合わせて対症療法を行えば良いといった感覚もあり、「変化の少ないクライアントから、自らの行動を導き出す」という視点には至らなかったのです。
第2の壁:「個別性への共感」と「全体最適の構造化」
組織が抱える複雑な課題を前にしたとき、コンサルタントは一旦、個人の感情や個別の事象を脇に置きます。そして、病院全体、地域医療全体という大きなシステムとして課題を俯瞰し、原因と結果の因果関係を「構造化」していくのです。
例えば、クライアントの看護部長から「今、病棟が本当に大変で……」という言葉を伝えられた時。かつての自分を重ね合わせて過度に共感してしまい、「大変ですよね、なんとかしてあげたい」と感情移入してしまいます。
しかし、コンサルの視点は違いました。
「なぜ大変なのか。病床稼働率と人員配置のバランスに歪みがあるのではないか。どの仕組みを直せば、全員が救われるのか」
というように、数字と構造で冷静に変革のレバーを探すのです。
「1人を見て深く寄り添う」看護師の脳と、「全体を俯瞰してシステムを直す」コンサルタントの脳。この視点の高低差が理解できるまでは、私は自分の立ち位置を見失い、苦しくて仕方がありませんでした。
そして、もうひとつ、こういった「理屈(思考)だけでは成功はしない」ということも教えてもらいました。
大切なのは、「心の底からこの病院様を何とかしたい!」と「自分ごとのように思う」心です。技だけあっても、気持ちがなければ何も動きませんし、解決策を探そうともしませんからね。私には、時にそんな根本的な部分が欠けてしまうこともありました。「心」は大切です。
あるあるエピソード:「100点主義」が引き起こす、暗闇の全力疾走
ここで、私と同じように未経験からコンサル業界に入った人が必ずハマると言われる、恥ずかしい私の失敗談(あるあるエピソード)を紹介させてください。
医療現場は「減点方式」の世界です。薬の与薬ミスや手順の間違いは、絶対に許されません。100点(ミスゼロ、安全第一)が当たり前であり、何か確実なエビデンス(検査データや医師の指示)が揃ってからでなければ、次の行動に移りません。
この「完璧に準備をしてから動く」という癖が、コンサルの資料作成で裏目に出ました。
(言っておきますが、「私が完璧な状態で成果物を提出した」と言っている訳ではありませんよ!笑)
「報告書」を書いた時のことです。私は看護師脳のまま、完璧な100点の資料を作ろうと1人で抱え込み、何時間も、それこそ夜遅くまで机に向かって調べ物をして報告書を作りました。
そして締切当日(これもイケナイ)、上司に提出しました。
返ってきた上司の評価は、及第点に遠く及ばないものでした。
時間をかけて丁寧に作った「私の自称100点」は、上司の想定するゴールとは全く違う方向に全速力で疾走した結果の、コンサルとしては「0点」の成果物だったのです。
コンサルの世界は「加点方式」であり、正解が最初からありません。必要なのは、1人で時間をかけて100点を目指すことではなく、時に振り返りながら「方向性を擦り合わせること」だったと思います。
医療安全の観点からは「予測だけで動くのは危険」ですが、ビジネスの世界では「すべての情報が揃うのを待っていたら手遅れになる」。だからこそ、打率が低くてもまず仮説を立てて、小さなアウトプットを出しながら修正していくスピード感が求められるのだと、身を以て感じました。
おわりに:二つのメガネを持つ、唯一無二の存在へ
一時は「自分にはこの仕事は向いていないのではないか」「前の世界に戻った方がいいのではないか」と本気で思い悩み、被害妄想的に様々なストレスを感じたこともありました。
しかし、この「思考の違い」を構造としてハッキリと理解できた今、私の心は少しずつ変わってきています。
できない自分を責める必要はなかったのです。ただ、38年間命を守り続けてきた誇り高き「看護師のメガネ」をかけたまま、コンサルタントという別のルールの戦場で戦おうとしていただけだったのですから。
今、私は新しい「MBA・コンサルタントのメガネ(逆算・構造・仮説思考)」を少しずつ、必死に頭に馴染ませている最中です。
そして気がついたことがあります。
私がコンサル思考という新しい武器を完全にマスターした時、私は「経営の言葉でゴールを語り、現場の言葉で人を動かすことができる」、唯一無二のハイブリッドな医療コンサルタントになれるはずです。(そうなったら良いなぁ~)
38年のキャリアは、決して無駄にはなりません。むしろ、これからの大躍進のための、誰にも真似できない強固な土台です。(実現できたらね)
まだまだ「生みの苦しみ」の真っ只中ではありますが、明日からも「20点のアウトプット」を恐れず、新しい思考の海を泳ぎ進めていきたいと思います。
なんて調子のいいことを言っておきながら、海に溺れていたらゴメンナサイ!

