本記事では、2026年度の診療報酬改定で新しく始まりました「救急患者応需係数」について説明をしてまいります。
今回の改定では、急性期一般入院基本料の見直しや、重症度、医療・看護必要度の評価項目の厳格化など、多くの病院に大きな影響を与える変更がなされました。その中でも、特に多くの急性期病院が注目し、かつ「計算方法や解釈がやや複雑だ」と頭を悩ませているのが、この新設された救急患者応需係数です。
この係数は、今後の高齢者救急の受け入れを積極的に行う病院を強力に後押しする仕組みである一方、その算定ロジックを正確に理解して自院のデータを分析しなければ、本来獲得できるはずの加算を取りこぼしたり、今後の病床戦略を誤ったりするリスクを孕んでいます。 本日は、この救急患者応需係数が新設された背景から、対象となる病棟や加算、具体的な計算方法、そして厚生労働省から示された疑義解釈に基づく按分や除外のロジックまで、分かりやすく解説してまいります。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
【出典】
① 診療報酬改定の概要【医科全体版】 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001706378.pdf
② 疑義解釈資料の送付について(その4)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001694332.pdf
Contents
救急患者応需係数が創設・新設された背景
まず、なぜ今回の令和8年度診療報酬改定において、重症度、医療・看護必要度の評価の中に「救急患者応需係数」という新しい係数が組み込まれることになったのでしょうか。その背景にあるのは、日本がいま現在直面している超高齢社会の進展と、疾病構造の変化です。

現在の日本は、高齢者人口が急増し、それに伴って高齢者救急の急増が起きています。そして、この傾向は今後さらに加速していくことが確実視されています。 これまでの重症度、医療・看護必要度の評価、特に救急搬送に関する評価においては、外科手術を伴うような重症症例が手厚く評価される傾向にありました。しかし、実際に現場で急増している高齢者救急の多くは、内科系疾患や誤嚥性肺炎、尿路感染症など、必ずしも急性期の外科的な手術を必要としないものの、集中的な全身管理や看護ケアを必要とする症例です。
つまり、今回の改定では、救急搬送症例の中でも、内科などのように手術がない症例に対する適切な評価を進めるという観点から、この救急患者応需係数が重症度、医療・看護必要度に新設、創設されました。これにより、外科的な手術件数が少ない病院であっても、地域の救急医療に多大な貢献をしているのであれば、重症度、医療・看護必要度の基準値をクリアしやすくなるような仕組みが講じられたのです。言い換えれば、これは「救急をどれだけ受け入れているか」という病院の機能そのものを、看護必要度の数値に直接反映させる仕組みだと言えます。
救急患者応需係数の基本的な仕組みと対象となる病床・加算
それでは、救急患者応需係数とは具体的にどのような仕組みなのでしょうか。 基本的には、対象病床における1病床あたりの年間救急搬送受入件数に応じた係数を算出し、そして対象となる一般病棟等の「基準該当患者割合」に加算する、つまり足し算をするという仕組みになります。

これまで、重症度、医療・看護必要度といえば該当患者割合を算出して基準値を超えるかどうかを判定していました。今回の改定では、A項目やC項目の項目自体にも改定がありますが、そこも踏まえまして、まずは従来の該当患者割合を例年通り算出します。その上で、対象病床、もしくは対象の加算を届け出ている病棟・病院は、救急患者応需係数を算出し、それを従来の該当患者割合に足したものが、今後「割合指数」として、対象病棟等における重症度、医療・看護必要度の値となります。

今回対象となる入院基本料と加算に関しましては、以下の通りとなっております。
・急性期A・Bの一般入院基本料
・急性期一般入院基本料1と看護・多職種協同加算
・急性期一般入院基本料2から5
・7対1入院基本料
・新設されました急性期総合体制加算の1から5
・地域包括医療病棟

これらの病棟や加算が、救急患者応需係数の対象となります。
では、まずは単純な計算例で全体像をつかんでまいりましょう。 例えば、急性期一般入院基本料の4を100床届け出ている病院において、令和7年度における救急搬送受入件数が1,000件だった場合を想定します。 この場合、1,000件を100床で割った「10件」が、年間の1病床あたりの救急搬送受入件数となりまして、この10件に対して0.005をかけたものが救急患者応需係数となります。計算いたしますと、10件かける0.005で、0.05、つまり5パーセントとなります。 そして、もともとの従来の該当患者割合に、この新しく算出された5パーセントを足したものが、この病棟における重症度、医療・看護必要度の新しい指数ということになります。1床あたりの受入件数に0.005をかけたものが救急患者応需係数である、というとてもシンプルな計算式です。

疑義解釈から紐解く極めて重要な3つのポイント
この係数につきましては、一見すると先ほどの単純計算だけで済むように思えますが、厚生労働省からいくつか疑義解釈が出されており、明確に示されている実務上の重要なルールがございます。ここでは3点ほど、ご説明をさせていただきます。
ポイント1:実績の対象期間と外来症例の取り扱いについて
まず、いつの実績が評価されるのかという点についてですが、「前年度1年間」の実績が評価されるということが明確になりました。 年間の救急搬送受入件数は、前年の4月から3月までの期間の救急搬送受入件数を対象期間の実績値として、そして翌年、その実績値が係数の適用となります。 さらに非常に重要なのが、この年間の救急搬送受入件数には、入院症例だけでなく「外来症例」、つまり救急車で搬送されたものの入院をしなかった患者さんの数も含められた数を使用するということです。
ただし、ここで注意が必要です。実績期間が前年度の1年間ということは、この制度の発表がされ、年度途中から慌てて救急の受け入れを強化しても、令和8年度の救急患者応需係数は上がりません。すでに過去の実績で決まってしまっている状態なのです。そのため、令和8年度は、次年度である令和9年度を見据えた恒常的な受け入れ強化が重要となります。一過性の取り組みではなく、体制として救急を受け止め続けられるかどうかが問われております。

ポイント2:対象病棟が複数ある場合の直入件数による按分計算とICUの除外
多くの急性期病院では、先ほどの例のように1つの入院基本料だけを単独で持っているケースは稀で、複数の対象病棟を持っていたり、ICUなどの専門病棟を併設していたりします。 対象病棟が複数ある場合、全体の救急件数を各病棟の救急搬送入院件数に応じて按分、すなわち比例配分する必要があります。ただし、ここで極めて重要なのは、ICU等のユニットへの直接入院、いわゆる直入件数は「按分対象外」となるという点です。

具体例で計算してみましょう。 一般病床100床の病院において、急性期一般入院基本料4を100床、地域包括医療病棟入院料2を50床届け出ているとします。さらにICUが5床あるとしましょう。 令和7年度の年間救急搬送受入件数が外来も含めて1,000件で、そのうち入院したのが450件だったとします。 この450件の内訳が、ICUへの直入が50件、急性期一般4への直入が300件、地域包括医療2への直入が100件であった場合です。
まず、ICU等は救急患者応需係数の対象外の病棟種別となりますので、そちらに直接入院した50件は今回の按分の対象外となります。全体の救急件数1,000件に対する減少を計算する必要はありません。つまり、多くの病院様でICUやHCUにいったん直入し、その後一般病棟に転棟しているケースが多いと思いますが、ユニット等への直入件数は按分対象外となります。
その上で、救急患者応需係数の算出対象となる病棟、ここでは急性期一般4と地域包括医療2に搬送入院した合計400人(300人+100人)をもとに、按分比率を算出していきます。 急性期一般4におきましては、直入患者300人を合計400人で割って、0.75、つまり75パーセントが按分比率となります。 地域包括医療2におきましても、直入患者100人を合計400人で割って、0.25、つまり25パーセントが按分比率となります。
それでは、各病棟の係数を計算します。 急性期一般4につきましては、全体で受け入れた1,000件に按分比率の0.75をかけますと750件となります。これを対象病床数の100床で割り、そこへ0.005をかけたものが、急性期一般4の救急患者応需係数となります。1,000件かける0.75は750件、それを100床で割ると7.5件、これに0.005をかけて0.0375、つまり3.75パーセントです。 同じく地域包括医療2につきましても、全体で受け入れた1,000件に按分比率の0.25をかけますと250件となります。これを対象病床数の50床で割り、そこへ0.005をかけたものが、地域包括医療2の救急患者応需係数となります。1,000件かける0.25は250件、それを50床で割ると5件、これに0.005をかけて0.025、つまり2.5パーセントです。

このように、対象病棟が複数ある場合は直入実績に応じて按分する必要がありますが、ICU等に直入した症例は按分の対象外となるため、計算時にはその扱いを誤らないよう確認が必要です。
ポイント3:地域包括ケア病床が混在する場合、分母から除外できる
3つ目のポイントは、届出病床の中に地域包括ケア入院医療管理料が含まれる一般急性期病棟がある場合の、非常に有利な取り扱いです。疑義解釈により、この地域包括ケア病床に入院した患者に関しては按分計算の必要がなく、かつ「分母である病床数からも除外することができる」と示されております。
前提として、全体の救急件数が1,000件だとして、急性期一般入院基本料4が100床あり、その100床のうち20床が地域包括ケア病床である場合を想定します。
まず分子についてですが、対象の病棟は実質1つのみのため、按分なしで1,000件を独占することができます。つまり分子を按分する必要はありません。急性期一般4の80床に入った患者と、地域包括ケア病床の20床に直入した患者を按分する必要はないということになります。 次に分母についてですが、分母の病床数100床に関して、地域包括ケア病床の20床を差し引くことができます。結果的に分母の数が減ります。 実質、1,000件を80床で割るという計算になりますので、1,000わる80は12.5件。そこに0.005をかけた0.0625、すなわち6.25パーセントが、この病院における急性期一般4の救急患者応需係数ということになります。 もし100床のままで計算していたら5パーセントでしたが、分母から20床を除外できたおかげで分母が小さくなり、結果的に係数が大きく跳ね上がるということになります。
一方、地域包括ケア病床に関しましては、救急患者応需係数の対象外となりますので、こちらの20床に入っている患者様に対しては、看護必要度の基準をクリアする必要はありますけれども、救急患者応需係数の算出にあたっては影響を与えない病床として取り扱うことができるという疑義解釈が出されております。自院の病床構成によって有利にも不利にも働きますので、算定ロジックを正確に理解しておくことが欠かせません。

2035年・2040年を見据えた急性期病院の方針決断
さて、ここまで救急患者応需係数の算定ロジックについて、やや複雑ではございますが解説してまいりました。しっかりと確認、理解した上で、令和8年度分の救急患者応需係数を活用していく必要があります。 しかし、ここでお伝えしたいのは、これは単なる計算ルールの話ではないということです。改めて自院の救急患者応需係数の算出方法についてご確認をいただき、そして今後、2035年、2040年に向けたそれぞれの方針というものを、この2年で色々と院内で議論していただければと思います。
今回の令和8年度の診療報酬改定は、急性期病院に方針の決断を迫るような改定となっております。各病院は自院の生き残りだけでなく、地域における役割を明確にするために、これからの方向性を決断しなければなりません。 1つ目は、高度な医療機能に特化していくのか。手術等の高度な医療を圧倒的な件数こなすことで、自力で高いハードルをクリアし続ける道です。 2つ目は、地域の救急搬送を断らずに受け入れていく、地域の基幹病院となっていくのか。今回の係数を最大限に活用し、手術の有無にかかわらず、地域からの救急要請を1件でも多く断らずに受け入れる路線です。 3つ目は、包括ケア機能へと舵を切っていくのか。今回新設された地域包括医療病棟や既存の地域包括ケア病床へと転換し、急増する高齢者の急性疾患を受け入れ、在宅復帰へと繋げることに特化していく戦略です。
救急患者応需係数は、まさにこの「救急を受け止め続ける覚悟があるか」を数値として可視化する仕組みでもあります。国は、ベッド数を絞り、分母を小さくし、救急を多く受け入れて分子を大きくする病院を高く評価する姿勢を鮮明にしています。

さいごに
今回は、やや複雑に感じていらっしゃるかと思います救急患者応需係数についてご説明をさせていただきました。 まずはこちらの救急患者応需係数の算定ロジックをしっかりと理解していただいた上で、今後2035年に向けた地域医療構想を見据えた、自院の役割を明確にしていくための一歩をご検討いただければと思います。 自院の過去1年間の救急搬送実績データと、病棟ごとの直入患者数、そして病床数を今一度精査し、正確なシミュレーションを行ってみてください。
本記事が参考になれば幸いです。最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。


