1. はじめに:91ページの膨大な資料から抽出

厚生労働省から公表された令和8年度診療報酬改定に伴う「疑義解釈資料(その2)」。91ページという圧倒的なボリュームを前に、「そのうちそのうち」と先送りにしていませんか?本稿では、「よし、しょうがない、一通り目を通すか」と重い腰を上げるきっかけになればと思い、疑義解釈(その2)のポイントについて記載します。

YouTube動画もぜひ、ご覧ください。

2. 【戦略的緩和】「看護多職種共同加算」は看護師のみの配置でも算定可能

今回の改定において、最も「衝撃的」かつ「歓迎すべき」解釈が示されたのが、新設された看護多職種共同加算です。この加算は、本来リハビリ職や管理栄養士、臨床検査技師といった多職種の介入を促す趣旨のものでした。

しかし、今回の疑義解釈では、通常の配置基準(10対1等)に加えて必要となる「25対1」の配置について、「看護職員のみ」で満たした場合でも算定可能であるという、回答が出されました。

「今までの7対1基準を看護師だけで維持できていると、看護多職種共同加算の配置人数までカバーできてしまう……なにより(算定して)OKですよというところが明確に示された」

この解釈が持つ意味は極めて大きいと言えます。例えば、現在「急性期一般1(7対1)」を維持している病院が、基準の厳格化に伴い「急性期一般B一般入院料」への移行を検討する場合、既存の看護師数を活用するだけで、新たな職種を配置せずとも報酬の上乗せが可能になります。名称に「多職種」とありながら、実質的には手厚い看護配置を維持する病院への救済措置とも取れるこの解釈は、急性期一般入院基本料から急性期一般B一般入院料における変換戦略を再考する強力なカードとなるでしょう。

3. 【出口戦略の具体化】「退院困難な要因」に身寄りなし問題が明記

入退院支援加算の算定において、現場のソーシャルワーカーが最も苦慮してきた「身寄りがない患者」への対応が、ようやく正当に項目に追加されました。今回、「退院困難な要因」として、家族・親族との連絡困難(身寄りがない、または協力拒絶)が具体的に定義されました。

ここで注目すべきは、病院側に求められる「特定する努力」の具体性です。単に「連絡が取れない」と片付けるのではなく、以下のプロセスを網羅することが求められます。

  • 患者本人への直接確認。
  • 入院前に利用していた介護・福祉サービス事業所への照会。
  • 行政機関等への公的な照会。

さらに重要な点として、家族や親族が見つからない場合であっても、必要に応じて「友人・知人・近隣住民」など、家族・親族以外の意思決定支援者や退院支援者を特定し、連絡を取るというプロセスまでもが「適切な対応」として明示されました。独居高齢者が激増する中、この解釈は病院が抱える「出口戦略」の困難さを制度が追認したものであり、支援プロセスを克明に記録に残すことが、そのまま加算の安定的な算定に直結します。

4. 【繰り越し厳禁】ベースアップ評価料、収入と改善の「同時進行」が原則に

財務・人事部門にとって最大の「警告灯」となるのが、令和8年度および9年度のベースアップ評価料の運用変更です。

最大の変更点は、得られた収入の「繰り越し要件の削除」です。令和8年6月から令和9年5月までに得た収入は、**「原則として当該年度内(令和9年5月まで)」**に、全額を賃金改善に充てることが義務付けられました。これまでの「余剰分は翌年度の原資としてストックする」という繰り越し型の管理は、許されなくなりました。

やむを得ず余剰が出た場合の例外規定として、「収入額確定後の端数などは、実績報告書を提出する8月までの賃金改善に充当すること」が認められていますが、これはあくまで患者数等の変動による微調整を想定したものです。

年度内での「使い切り」が原則となるため、毎月の収入変動を定期的に管理し、人事部門と連携したリアルタイムな賃金還元スキームを再構築する必要があります。

5. 【算定ミス防止】実績データ期間と対象範囲の再定義

最後に、係数算出や施設基準の届け出における以下の3点は、収益のベースとなる係数に直結するため、集計ミスは許されません。

  • 「前年度の4月から3月」の実績期間固定: 救急搬送や全身麻酔の実績は、直近12ヶ月の随時計算ではなく、一律で「前年度の1年間」のデータを用いて算出・届け出を行うことが明確化されました。
  • 「救急患者応需係数」の対象範囲の再確認: 救急患者応需係数の計算対象病床は、特定機能病院入院基本料、急性期一般入院基本料、地域包括医療病棟入院料など多岐にわたります。また、加算としては看護多職種共同加算や急性期総合体制加算も含まれます。こちらも、直近12ヶ月の随時計算ではなく、一律で「前年度の1年間」のデータを用いて算出・届け出を行うことが明確化されました。
  • 「救急搬送」に外来症例を算入: 救急患者受け入れ件数には、入院に至ったケースだけでなく、「外来」で対応した症例も含まれます。
  • 歯科医師による手術の除外: 歯科点数表に基づき、歯科医師が行った全身麻酔手術(抜歯等)は、医科の「全身麻酔による手術件数」には合算できません。

6. おわりに:これからの病院経営に求められる「解釈のアップデート」

今回の疑義解釈資料も、診療報酬改定における重要なガイドラインです。

「看護師のみで加算が取れる」という緩和をどう戦略に組み込むか。「ベア評価料の使い切り」という財務ルールの変化にどう対応するか。診療報酬制度が高度化・複雑化する中、経営層に求められるのは、こうした解釈の断片を繋ぎ合わせ、自院の最適解を導き出す「アップデート能力」に他なりません。