はじめに
本記事では、7月3日に公表されました「地域医療構想策定ガイドライン」について、各医療機関が今の段階で押さえておくべきポイントを、実務視点を交えてお伝えします。
先に結論を申し上げます。最大かつ最重要のポイントは、 「遅くとも2028年度までに、各病院が2040年に担う医療機関機能を『選択』し、決定しなければならない具体的なスケジュールが公表された」 という点です。
2028年度というと、まだ先のことのように思えるかもしれません。しかし、院内での合意形成や、地域の調整会議での協議期間を考慮すると、実はもう時間的な余裕はありません。すべての医療機関にとって、事実上の「カウントダウン」が始まったことを意味しています。
それでは、具体的な内容について詳しく読み解いていきましょう。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
【出典】地域医療構想策定ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001718620.pdf
ガイドラインが整理している「3つの観点」と「考え方」
ガイドラインの冒頭では、都道府県が地域医療構想を策定・推進する実務をスムーズに進められるよう、主に以下の3つの観点から整理されています。
- 基本的な考え方:各医療機関機能に期待される役割など、新たな地域医療構想における基本的な考え方が示されています。
- 地域医療構想の策定:地域医療構想を策定するにあたり、地域での議論の進め方などが整理されています。
- 地域医療構想の推進:構想の進捗や医療提供体制の状況を定期的に把握し、必要に応じて見直しを行うべきことなどが示されています。
国は「考え方を示す」「つくる」「回し続ける(PDCAサイクル)」の3段構えで、今後の改革を進める予定です。 単なる計画で終わらせるのではなく、実務レベルで医療提供体制を永続的にブラッシュアップし続ける仕組みがすでに構築されていると捉えるべきでしょう。
背景:2040年を見据えた「医療需要の変化」と「担い手不足」
なぜこれほど強固な改革が急がれるのか。その背景には、我々が直面する「2040年問題」があります。
我が国においては今後、高齢者人口がピークを迎える2040年頃に向けて、人口構造や疾病構造が劇的に変化します。これに伴い、必要とされる医療需要は、量的・質的に大きく変化することが見込まれています。
さらに、議論を深刻にしているのが「生産年齢人口の減少」です。 医療需要が増える一方で、医療現場を支える医師、看護職員、リハビリ専門職といった担い手の確保は困難を極めます。
「医療需要の変化」と「支え手の減少」。この2つの危機が同時に押し寄せることが、今回の議論の出発点です
そのため、個々の病院が競合し合うのではなく、役割分担と連携によって地域全体として適切な医療提供体制を構築する必要があります。
ここで重要なのは、「自院の生き残り」という従来型の発想だけでは通用しないという点です。 ガイドラインは、あくまで「地域全体として適切な体制をつくる」という大前提に立って設計されています。他院との連携が前提である以上、自院だけで完結する検討はあり得ません。地域の中での自院の位置づけを客観的に捉え直すことが求められているのです。
ロードマップ:2028年度までのスケジュールと「名指し」の重み
次に、これからどのようなスケジュールで議論が進んでいくのか、具体的なロードマップを確認しておきましょう。

進め方として、遅くとも「2028年度まで」の策定を目指すため、2026〜2027年度の現フェーズが極めて重要になります。
この期間は、医療需要の見直し、医療提供体制の現状分析、これらを客観的なデータに基づいて行うこととされています。あわせて、調整会議でデータに基づく議論、課題整理、構想区域の点検・見直しを行います。
そして2028年度までに、2040年の各医療機関の機能、2040年の必要病床数、入院や外来・在宅・介護連携・人材確保に関する取り組みについて、調整会議で協議し、地域医療構想として策定する必要があるとされています。
特に「急性期拠点機能を担う病院の具体的な名称も含め」協議するという一文は、極めて重い意味を持ちます。 数字のみの抽象的な議論で終わらせず、「どの病院が急性期拠点を担うのか」が「名指し」で整理され、決定されていくからです。
さらに、地域医療構想は一度策定して終わりではなく、需要や提供体制の変化に合わせて継続的に見直されます(PDCAサイクル)。都道府県は進捗を定期確認し、必要に応じて取り組みの改善を求めていくことになります。 一度作って終わりではなく、常に回し続ける前提である点をご理解ください。
医療機関機能報告:2040年の機能を「今から」報告する実務
この2028年度の策定に向けて、実務上、最も早く対応を迫られるのが「医療機関機能報告」の開始です。

医療機関は、地域における自院の機能を都道府県知事に報告することとされています。 報告する具体的な内容は、主に以下の通りです。
- 現に担っている機能
- 2040年において担う機能
- その他協議に必要な診療実績等
すでに令和8年度(2026年度)の医療機関機能報告における報告項目として、ガイドラインの「別添2」が公表されています。 最大のポイントは、単に現状を報告するだけでなく、「2040年に自院が担う機能」を自ら検討し報告しなければならないという点です。
スケジュールを整理すると、以下のようになります。
- 毎年の報告:自ら検討した「現状に近い機能」と「2040年に担う機能」、および診療実績を報告する。
- 2028年度まで:調整会議での協議を経て、遅くとも2028年度までに各医療機関が「2040年に担う医療機関機能」を決定し、報告する。
- 2028年度以降:決定された医療機関機能等を継続して報告していく。
もし2028年度の決定以降に、報告する医療機関機能の見直しを行う場合には、必要に応じて調整会議において、報告内容や医療提供体制への影響について確認を受けるプロセスが入ることになります。 つまり、実質的に「2028年度」が、当院の2040年における運命を決定するデッドラインとなるわけです。
最大の選択:「高齢者救急・地域急性期機能」と「急性期拠点機能」は両立できない
今回のガイドラインを読み解く上で、病院経営において最も衝撃的であり、かつ最大の経営判断を迫られる記述がここにあります。
それは、「高齢者救急・地域急性期機能」と「急性期拠点機能」は、1つの医療機関が両方の機能を重複して報告することはしないというルールが明記された点です。
この2つの機能は、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものです。これは、自院がどちらの立ち位置で2040年を迎えるのか、明確に決断せよという我々に対する強力なメッセージです。
- 高度な手術や重症患者への集中治療を行う「急性期拠点機能」を目指すのか
- 地域の高齢者救急を広く受け入れ、在宅や介護施設への復帰を支える「高齢者救急・地域急性期機能」に特化するのか
この選択は単なる書類上の報告に留まりません。 選択した機能によって、人員配置、設備投資、診療報酬の獲得戦略、地域の他院や介護施設との連携体制など、病院経営のグランドデザインが根本から決定されていきます。 これを踏まえて、2040年に向けた自院の機能を決定していく議論を、院内でも地域でも進めていかなくてはいけません。
実務の落とし穴:令和8年度報告項目の「期間と時点」
ここで、実務を担当される皆様に向けて、非常に地味ですが「実際にデータを集める際に引っかかりやすいポイント」をお伝えしておきます。
ガイドラインの別添2に示されている、令和8年度の医療機関機能報告の項目(救急実績、手術実績、高齢者医療の状況、高齢者施設との連携、在宅医療の提供状況など)には、報告対象となる「期間」と「時点」に明確な区別があります。
- 緑色の区分で示された項目:7月1日時点の状況を報告する(例:構造、設備、人員配置など)
- ピンク色の区分で示された項目:前年1年間の実績等を報告する(例:手術件数、救急受け入れ件数など)

この時点と期間の区分は、実務上、データを集める側に地味に効いてくる部分ですので、集計ミスによる手戻りを防ぐためにも、データの抽出基準を早めに確認・整理しておくことを強くお勧めします。
病床機能報告の継続:「回復期」から「包括期機能」への移行とデータ主義
医療機関機能報告が新たに始まる一方で、従来からの「病床機能報告」も並行して継続されます。ここにも実務上、見逃せない変化があります。

大きな変更点は、従来の「回復期機能」が、新たに「包括期機能」として位置づけ直される点です。これにより、今後の報告目安は、 高度急性期、急性期、包括期、慢性期という4つの区分に整理されることになります。
また、病床機能の報告において重要な注意点があります。 ガイドラインでは、病床機能報告は診療報酬上の入院料のみで機械的に決定せず、実際の医療機能や客観的なデータを踏まえて適切に判断し報告することが重要であると指摘されています。
ここは読み飛ばしやすいですが、実務上極めて大事な一文です。「この入院料だから、自動的にこの機能で報告する」という機械的な運用ではなく、実際に提供している医療をデータで説明できる形にしておく必要があります。日頃から自院のデータを客観的に分析・整理しておくことが必須です。
まとめ:今すぐ始めるべき実務アクション
今回の内容を整理し、我々が今すぐ取り組むべきアクションをまとめます。
まずは「令和8年度の医療機関機能報告の報告項目」について確認をしていただくこと。そしてスケジュールどおり、遅くとも2028年度までには、自院が2040年に担う医療機関機能を選択・決定しなければならないスケジュールが公表されているという点です。
2年後という期限は、院内で合意形成を図り、さらに地域の調整会議で他院と協議を重ねる時間を考えれば、決して長い時間ではありません。データの整理と院内の議論は、今年度から動き出しておいて損はないはずです。
今日から以下の3つのアクションを開始してください。
- 令和8年度報告項目の早期確認 自院のデータ抽出システムが、報告項目に即座に対応できる状態にあるかを確認してください。
- 客観的データに基づく自院の実態把握 現在の救急実績や手術件数、高齢者医療の状況など、ガイドラインが求める客観データを可視化しましょう。
- 「急性期拠点」か「高齢者救急・地域急性期」か、自院の医療資源、地域の他院の動向を比較検討し、どちらを選択すべきかのシミュレーションを開始してください。
自院だけで生き残る時代は終わりました。地域全体の医療提供体制の中に、当院がどうはまるのか。客観的なデータと明確なビジョンを持って、主導的に議論を引っ張っていきましょう。
本記事が、皆様の病院経営や実務の一助となれば幸いです。

