はじめに

本記事のテーマは、DPC対象病院における「持参薬ルール」についてです。

先日開催された「令和8年度 第1回 入院・外来医療等の調査・評価分科会」(2026年5月14日開催)の資料において、持参薬ルールに関する議論が興味深い形で取り上げられていました。 日常業務に見える持参薬対応ですが、国は今、従来の曖昧な運用を許さない厳格化の姿勢を強めています。

本記事では、最新の分科会資料を読み解きながら、制度上の原則、歴史、現場のジレンマ、安全管理上のリスク、そして今求められる多職種連携について、AIによる再調査の結果も踏まえて解説していきます。持参薬を安易に使い回すことが、将来の経営や医療安全にとってどうなのかを考えていきましょう。

ぜひ最後までお付き合いください。

動画も公開しておりますので、よろしければご覧ください。

 

【出典】『入院・外来医療等の調査・評価分科会における検討結果(とりまとめ)』(令和7年9月25日抜粋分)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001699765.pdf

 

令和8年度の議論で再燃する「持参薬問題」の最新論点

まずは、令和8年度 第1回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(令和8年5月14日開催)で提示された最新資料のポイントを確認しましょう。

分科会資料には、令和7年9月25日時点の検討結果とりまとめをもとに、次のような趣旨が明記されていました。

「入院中の持参薬の使用は、DPC/PDPSでの公平な支払いを実現する観点等から、できる限り統一的な運用が行われることが望ましいが、持参薬の使用割合は医療機関ごとに大きなばらつきがある」

統一的運用の推進に向けた「持参薬ルールの明確化」を行う上では、医療安全の確保、複数診療科外来受診時の病棟確認負担、患者側の負担を考慮し、以下のような具体的な場面を想定して妥当性を検討する必要があるとされています。

  • 持参薬の処方元が「自院」か「他院」か
  • 「予定入院」か「緊急入院」か
  • 入院中の診療内容と持参薬との「関係性」
  • 薬剤の特性(麻薬や向精神薬など)

さらに、地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟などの包括算定病棟における持参薬の取扱いについても検討を進めることが望ましいとされており、この厳格化の流れは包括病棟すべてに波及しつつあります。

 

そもそも持参薬のルールとは? DPC制度の基本理念と「持参薬取り扱いの大原則」

持参薬とは、患者さんが入院する前に自院の外来や他院、あるいは調剤薬局などで処方され、入院時にご自身で病院へ持ち込む薬剤を指します。

制度の基本的な考え方に立ち返れば、ルールは明確です。「入院中の患者さんに使用するすべての薬剤は、入院先の病院がその責任と権限において処方・提供すること」

必要な医療資源は、包括点数を受け取る病院側が「自院のコスト」として提供するのが大原則です。

DPCは包括定額支払いの仕組みです。病院が投薬料を含んだ定額報酬を受け取りながら、実際の薬剤を患者さんの持参薬で賄ってしまえば、制度上の「ただ乗り」や「二重取り」が生じてしまいます。このような不合理を防ぐために、入院契機傷病に対する持参薬の使用は原則禁止とされているのです。

 

診療報酬改定の歴史から紐解く厳格化の流れ

この原則禁止ルールは、診療報酬改定のたびに厳格化されてきました。

大きな転換点は、平成26年度(2014年度)の診療報酬改定です。 この改定により、「入院中の患者に使用する薬剤は入院する病院が処方することが原則」とされ、とりわけ「入院の契機となる傷病に対する持参薬の使用は原則禁止」と規定されました。 予定入院において、意図的に外来や他院で事前に長期処方させて持ち込ませる運用は、特別な理由がない限り一切認められません。

さらに、平成28年度(2016年度)の改定では、持参薬の利用実態を正確に把握する目的でデータ提出義務が新設されました。 入院中に持参薬を使用した医療機関は、薬剤名、使用量、点数情報などを「EF統合ファイル」に必ず出力して提出しなければならず、現場の使用実態が国にデータとして完全に可視化される仕組みとなりました。

 

 例外規定である「特別な理由」の高いハードル

原則禁止の下で、現実的な運用を担保するために設けられているのが「特別な理由」という例外規定です。

しかし、この理由は非常に厳しく制限されています。 単に「担当医の要請があったから」「病院の基本方針だから」といった病院側の都合や便宜的な理由は、原則として認められません。 厚生労働省の通知によると、患者個々の状態等に応じた「個別具体的かつやむを得ない理由」であることが厳格に求められます。

具体例として認められるのは、以下のようなケースのみです。

  • 自院に代替できる採用薬がなく、新たに臨時採用薬として発注した薬剤が納品され使用可能となるまでの期間(目安として概ね2日程度)のつなぎとしての使用
  • 短期入院などで新たに院内処方を行うと退院時に大量の薬剤が破棄され、医療資源の無駄が生じるケース
  • 退院後に不要となる薬剤を使用するケース

これらのやむを得ない理由により持参薬を使用する場合、主治医はその理由を診療録(カルテ)に詳細に記載する義務を負っています。

 

ルールと現実の乖離:現場で持参薬使用が後を絶たない「裏事情」

これほど厳しい厳格化が進む一方で、現実の医療現場との間には深刻な乖離が生じています。

調査報告によると、持参薬を使用した理由として「担当医の要請」や「自院の方針」といった病院側の都合を挙げる医療機関が約80%を占めているというデータがあります。ルールと現場の運用がいかに乖離しているかが分かります。

なぜ、病院はルールを逸脱してまで持参薬を継続してしまうのでしょうか。そこには以下の複合的な要因があります。

  1. 高額薬を院内処方することによる「コスト超過の回避」
     DPCは定額評価のため、高額な薬剤の院内処方は病院のコスト超過となり利益を圧迫します。DPC病院における持参薬の年間平均使用額は平均1500万円に上るというデータもあり、経営への影響は無視できません。
  2. 「処方・調剤業務の負担軽減」
    短期入院に対し、常用薬をカルテに再入力し、調剤し直す手間を削減したいという事情があります。
  3. 「院内採用薬・在庫管理の限界」
    精神科専門薬や特殊な麻薬など、一人の患者のために採用外の薬を院内在庫として購入・管理することは非効率です。
  4. 「服薬コンプライアンスの維持」
    飲み慣れた薬の形状を変更することで服薬エラーが生じるのを避けたいという安全上の意図もあります。

現場の運用は、持参薬使用割合を5%以下に抑えている施設も多い一方で、55%以上60%未満という高頻度で使用している施設も多く、二極化しています。

 

包括点数引き下げという、首を絞め合う「構造的ジレンマ」

「目の前のコストを抑えられるなら持参薬を続けた方が得」と思われるかもしれません。しかし、これは病院の収益基盤が静かに追い込まれる「構造的なリスク」をはらんでいます。

DPCの包括点数は、過去に全国の病院から提出された出来高実績、つまり「実際に治療にかかったコストの平均値」に基づいて、次期改定時の点数が設定されるメカニズムになっています。

もし多くの病院が持参薬を使い続ければ、データ上は入院中の薬剤費が著しく低く算出され、過小評価されてしまいます。 国はその低いコスト実績をもとに次回の包括点数を算定するため、結果としてその疾患の包括点数そのものを引き下げてしまうのです。 目先の数万円を浮かせたつもりが、数年後の包括点数(収入)ダウンとしてブーメランのように自院に返ってくる、構造的ジレンマなのです。

 

現場の悲鳴と医療安全に潜む「2つのリスク」

さらに、持参薬の継続は現場への業務負担と、医療安全上の極めて高いリスクをもたらします。

  1. 鑑別・管理の煩雑さ(業務の負担増)
    患者さんが持参する薬は、袋ごとまとめて持ってこられる方、バラバラのシートを缶に詰め込んでくる方など千差万別です。 銘柄や規格、成分量を確認する作業は看護師や薬剤師にとって大きな業務負担です。特に一包化されている場合は、中身を一つずつ目視で照合する必要があり、重複投与や相互作用のチェックも含めてプロセスは非常に煩雑です。
  2. 代替薬への切り替えや確認不足に伴う医療事故
    いっぽうで、無理な院内処方への切り替えにも危険性があります。例えば「代謝・排泄経路の罠」です。 同効薬へ切り替える際、腎排泄型と肝代謝型の違いを見落とした誤認によって、腎機能障害のある患者さんに重大な副作用を生じさせてしまった事例が報告されています。さらに、確認不足による「処方漏れ(内服中断)」も深刻です。 持参薬鑑別書の登録時、患者さんが持参し忘れていた抗凝固薬(リクシアナ錠)の存在に気づかず、医師も処方を継続しなかったため、入院7日後に下肢動脈血栓症を発症した事例もありますし、また、利尿薬(フロセミド錠)の処方が漏れ、その後の処方チェックを誰も行わなかったために患者さんの心不全が著しく悪化してしまった事例などが報告されています。 慢性疾患の薬は、服用を止めても直ちに自覚症状が出ないことも多く、見逃されやすいという怖さがあります。

解決への処方箋:多職種連携と適正な管理体制の構築

これらの課題を乗り越え、制度に適合しつつ安全な管理を行うためには、病棟薬剤師を中心とした「多職種連携体制の構築」が不可欠です。

取り組むべき具体策は以下の3点です。

  • 病棟薬剤師の早期介入
    入院直後にお薬手帳や他院処方履歴、薬歴等を統合して服用薬を洗い出し、持参忘れ等による処方漏れを防ぎます。
  • ダブルチェック体制の構築
    持参薬の継続か切り替えかを協議し、切り替え時は代謝排泄経路や成分量を薬剤師が評価して処方提案します。看護師も配薬時に気づける体制を作ります。
  • カルテ記載とEF提出の徹底
    やむを得ず使用する場合は、カルテに理由を詳細に記載し、使用量を漏れなくEF統合ファイルに出力して提出するフローを徹底します。

 

まとめ:曖昧な運用はもう通用しない!?改めて自院の実態を棚卸ししよう

いかがでしたでしょうか。

持参薬ルールをめぐる問題は、単なる手間の問題ではなく、将来の包括点数引き下げという病院全体の「経営危機」、そして重大な副作用や内服中断を引き起こす「医療安全の危機」に直結する、極めて重要なガバナンス課題です。

令和8年度改定に向けた分科会の議論が示すように、今後は処方元や入院経路、傷病との関連性に応じた、さらに具体的で逃げ道のないルール整備が進むことは間違いありません。また、包括算定病棟への波及も想定されます。

病院に求められるのは、現在の曖昧な運用をそのままにせず、自院の持参薬使用割合、カルテの記載状況、精度高い確認フローを今一度ゼロベースで棚卸しすることです。

本記事の内容が、皆様の病院経営や日々の業務改善の参考になりましたら幸いです。