はじめに:令和8年8月の提出期限に向けて
今回は、令和8年度診療報酬改定における「ベースアップ評価料等」について、提出期限が令和8年8月と目前に迫っている2つの報告書に関する重要ポイントを解説いたします。
医療機関を運営されている皆様にとって、スタッフの賃上げやベースアップ評価料の適切な手続き・報告は、経営上・労務上においても非常に重要な業務です。
「提出締め切り直前になって慌てて集計を始めたけれど、様式が複雑で間に合わない…」
「どの期間の数字を集計すればいいのか分からない…」
このような事態に陥らないよう、今回の報告で必要となる手続きや、今年度特有の新旧様式の違い、そして厚生労働省から出されている疑義解釈の注意点について整理しました。ぜひ参考にしていただき、スムーズな書類作成にお役立てください。
動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。
【出典】
厚生労働省:令和8年度診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
厚生労働省:令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料等について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
病院及び有床診療所用 ベースアップ評価料 報告書専用様式の記載例
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001686681.pdf
疑義解釈:看護職員処遇改善評価料及びベースアップ評価料関係
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001698611.pdf
令和8年8月のタイミングでは、2つの報告書を同時に提出する必要があります。

1つ目が「令和7年度算定分の実績報告(前年度の最終実績報告)」、 2つ目が「令和8年度算定分の中間報告(今年度の途中経過報告)」です。
前年度分の締めくくりと、今年度分の途中経過という、目的の異なる2つの報告を同じタイミングで行わなければなりません。まずはこのスケジュール感をしっかりと意識して準備を進めていきましょう。
前提条件:自施設の届出状況をまず確認しましょう
具体的な報告書の書き方に入る前に、前提条件があります。

今回の提出については、令和8年6月からベースアップ評価料を算定しているすべての医療機関等が、5月中旬(5月中)までに届出を完了していることを前提としています。
ここで、「うちの施設は届出の状況がどうなっていたかな…?」と疑問に思われた方は、以下の区分に従って自施設の状況をご確認ください。
【パターンA:令和7年度に算定しており、令和8年度も届出済みの場合】
令和7年度の実績報告書、および令和8年度の中間報告書の両方を提出する必要があります。
【パターンB:令和7年度に算定していたが、令和8年度は届出をしていない場合】
仮に万が一、令和8年度の届出を行っていない場合であっても、令和7年度にベースアップ評価料を算定していたのであれば「令和7年度の実績報告書」の提出は必須となります。
令和8年度の中間報告書につきましては、事前にしかるべき届出を行っていることが大前提となります。
まずは自施設の届出状況がどうなっているかを改めてチェックした上で、書類の作成に移っていきましょう。
今後の提出スケジュールと全体の流れ:なぜ今年だけ特別なのか?
今後の提出スケジュールと全体の運用フローについて、改めて整理しておきます。

結論から申し上げますと、令和8年8月以降は「年に1回、毎年8月を提出期限」として、「前年度分の最終実績報告」と「当該年度分の中間報告」をセットで提出していく運用になります。
つまり、毎年8月がベースアップ評価料に関する定期報告の月になるわけです。
しかし、今年度(令和8年度)において、実務担当者の皆様が最も注意しなければならない重大なポイントがあります。
それは、「令和7年度の実績報告」と「令和8年度の中間報告」で、使用する様式(フォーマット)が異なっているという点です。

具体的には、以下の使い分けが必要になります。
- 令和7年度の実績報告書:従来の「旧様式」を使用します。
- 令和8年度の中間報告書:令和8年度・9年度向けに新しく公開された「新様式(Excelフォーマット)」を使用します。
今年は、従来の制度から新改定後の制度への「移行期」にあたる年です。そのため、今年度限りの特例として、新旧ふたつの異なるフォーマットを同時に作成し分けなければなりません。
せっかく時間をかけて集計したのに、間違えた様式に入力して提出してしまったら大変なタイムロスになります。くれぐれも様式の取り違えにはご注意ください。
令和7年度実績報告書(旧様式)の記載ポイント
まずは、1つ目の提出書類である「令和7年度算定分の実績報告書」から詳しく見ていきましょう。
厚生労働省の特設ページを開いていただき、記載例などのリンクを飛んでいただくと、病院・有床診療所用、無床診療所用、歯科、訪問看護など、それぞれの施設形態に合わせた旧フォーマットの様式や記載例が用意されています。

自施設に対応するものを確認しながら記入を進めていきます。
具体的な記載の流れと、確認すべきポイントは以下の通りです。
ステップ1:基本情報と各期間の入力
医療機関の名称や所在地などの基本情報を入力した上で、「賃金改善実施期間」および「ベースアップ評価料算定期間」を記載します。
ステップ2:収入実績額の記入と集計
ベースアップ評価料の算定期間中に実際に得た診療報酬収入の実績額を記入し、その総額を算出します。
ステップ3:繰越額の加味と目標改善額の算出
前年度からの繰越額がある場合はそれを加え、翌年度への繰越予定額がある場合はそれを差し引くなどして記載します。これにより、当該年度においてベースアップ等(ベア等)に伴って満たさなければならない「賃金改善金額の目標・算出基準」が明確に弾き出されます。
ステップ4:対象職員への充当状況の確認算出された要件金額に対して、実際の職員への賃金改善額がしっかりと充当できているか(基準を満たしているか)を検証できる仕組みになっています。フォーマットの下部では、ベースアップ評価料の対象となる職員全体の基本給等の情報を記入します。職種ごとの内訳(看護職員、リハビリ職員、その他コメディカル等)を詳細に記入し、獲得した評価料収入が対象職員へ正しく分配・充当されていることを最終確認した上で、提出書類を作成・完成させていきます。


旧様式の手続き自体はこれまでの実績報告と大きく変わりませんので、落ち着いて数字を集計していけば問題ありません。
令和8年度中間報告書(新様式)の記載ポイントと注意点
続いて、2つ目の提出書類である「令和8年度算定分の中間報告書」について解説します。
こちらは前述の通り、新しく公開されたExcelフォーマットを使用します。

厚生労働省の改定特設ページを下にスクロールしていただきますと、「令和8年度・9年度算定分の賃金改善実績報告書様式」というコーナーがあります。
ここから自施設に対応したExcelファイル(病院・診療所・歯科診療所用であれば様式100の別添1、法人用であれば別添2など)をダウンロードしてください。
ダウンロードしたExcelファイルを開くと、下に複数のシートタブがあります。提出書類の種類を選択する欄がありますので、そこで「賃金改善中間報告書」を選択して作成を開始します。
中間報告の対象となる期間(月)はどこになるのか?(厚生労働省 疑義解釈 問6より)
ここからが今回の改定で実務担当者の皆様が最も迷われやすい、超重要ポイントになります。
「中間報告というけれど、4月から賃上げした場合は4月〜7月の4ヶ月分を報告するの?」 「それとも直近の月だけ?」
このような疑問をお持ちの方が非常に多いのではないでしょうか。
結論を申し上げますと、令和8年度の中間報告で対象となる期間は、原則として「令和8年6月および7月の2ヶ月間」となります。例えば、令和8年6月から賃上げを実施した施設であれば、当然ながら6月・7月の2ヶ月分の実績を報告することになります。

間違えやすいのが、「令和8年4月から先行して賃上げを実施していた施設」の場合です。仮に4月から先行して賃上げを行っていたとしても、中間報告で提出する実績期間は「4月・5月分」でも「4月〜7月分」でもなく、「6月・7月分」の実績を報告しなければなりません。
「えっ、4月からの賃上げ実績は書かなくていいの?」と思われるかもしれませんが、これについては厚生労働省から明確な疑義解釈(問6)が出されています。

このように国から明確に示されています。非常に勘違いしやすいポイントですので、集計作業に入られる際は「集計対象は6月と7月の2ヶ月分!」と強く意識しておいてください。

新様式Excelの具体的な入力ステップ
新様式Excelでの実績数値の入力手順は、以下のステップで進めていきます。
- 常勤換算の人数を入力する。
- 賃金改善を実施した月(6月・7月)の職員の基本給総額を入力する。
- 令和8年5月時点(賃金改善を実施していないベースの状態)の職員の基本給等の総額を入力する。
- 上記2と3の差額を算出することで、基本給等のベースアップによる「賃金増率・増額分」を自動算出する。
- ベアに伴う賞与の増加分や、法定福利費の増加分などに充当した総額を入力する。
- 職種別の内訳(看護職員、コメディカル等)に沿って正確に入力していく。





これらの入力を行うことで、最終的に「ベースアップ評価料による収入額」が「対象職員への賃金改善」へしっかりと充当されているかが自動計算・検証されます。問題なく充当されていることが確認できれば、中間報告書としての作成は完了となります。
補足:賃金改善実施期間と算定期間の「ズレ」について(将来的な実績報告の話)
今回の8月中間報告においては、対象期間は「6月と7月の2ヶ月間」、算定期間も「改定後の6月から7月の2ヶ月間」で一致します。
なお、これが中間報告ではなく、将来的に「令和8年度分の最終実績報告(来年以降の報告)」を行う段階になった場合には、算定期間と賃金改善期間でズレが生じる可能性がありそうです。例えば、6月から翌年5月までの1年間に算定した評価料収入を、4月から翌年3月の賃金改善に充当する場合(遡及して賃金改善を実施する場合など)は、同じ12ヶ月間であっても対象月にズレが発生します。なお、この「令和8年度実績報告時の賃金改善実施期間とベースアップ評価料算定期間にずれが生じる」という点につきましては、私個人としては「おそらく同じ12ヶ月でもずれが生じるということになってくるのかな」と、今のところ解釈しております。実務上の予備知識として頭の片隅に置いておくと、今後の運用の見通しが立ちやすくなるかと思います。
公立・自治体病院様などに対する配慮・特例チェック欄
また、新様式Excelには、公立・自治体病院様をはじめとする一部の施設に対する配慮・配慮措置も設けられています。
公立・自治体病院などでは、賃上げにあたって条例改正の手続きが必要であったり、8月時点で人事院勧告が出揃っていなかったりします。そのため、8月提出のタイミングでは6月・7月分の確定した賃金改善実績を記入できないケースが多々あります。
そういった施設のために、新様式には「条例改正等が必要なため、8月時点で賃金改善の実績を記載できない場合」という専用のチェック欄が用意されています。
8月時点で6月・7月の実績がどうしても確定していない自治体病院様などは、無理に予測値を書くのではなく、こちらのチェック欄にチェックを入れて提出する形になりますのでご安心ください。
その他にも、ベースアップ評価料の賃金改善実施期間中に「初めて看護師の処遇改善評価料を算定する医療機関」向けのチェック項目なども新たに設けられていますので、該当する施設は漏れなくチェックを行いましょう。
「継続的な賃上げ取り組み実績」のルール(厚生労働省 疑義解釈 問7より)
令和8年度の中間報告・実績報告を作成するにあたり、もう一つ知っておくべき疑義解釈があります。
それは、「収入の実績額にどの点数をカウントして計算すべきか」という点です。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)などには、注5等において「継続的な賃上げの取り組みの実績にかかる評価分(加算・評価点数)」が設定されている場合があります。
この「継続的な賃上げの取り組みの実績にかかる評価分」で得た収入について、「報告書に記載するベースアップ評価料等による収入実績額に含めて計算すべきなのか、それとも除外するのか」という疑問が生じます。
これに対する厚生労働省の回答は、「含めない」となっています。

注5等の継続的な賃上げ評価分の点数を除いた、「本体点数のみ」を算定した場合に置き換えて収入実績を計算しなければなりません。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の場合、 注5の適用があるか(継続的な賃上げ評価分が付加されているか)どうかに関わらず、報告書に記載する収入実績額の計算ベースとなる点数は、令和8年度においては一律「初診時17点、再診時等4点」として計算することとなります。
実務上、レセプトデータから算定金額を集計する際に、加算分も含めた「実際に請求した総額」で集計してしまうと、報告書上の収入実績額にズレが生じてしまいます。
必ず「継続的賃上げ分を除いた本体点数のみで再計算・集計する」というルールを、院内の事務担当者や医事課スタッフへ周知徹底してください。
まとめ:提出遅れを防ぐために今すぐ始めるべき準備
今回は、令和8年8月に提出期限を迎える「令和7年度実績報告」と「令和8年度中間報告」のポイントについて解説いたしました。
最後にもう一度、実務で間違えやすい最重要ポイントを整理しておきましょう。
【今回のまとめポイント】
- 提出期限は「令和8年8月」です。
- 提出書類は「令和7年度の実績報告(前年度分)」と「令和8年度の中間報告(今年度分)」の2つです。
- 令和7年度実績報告は「旧様式」を使用します。
- 令和8年度中間報告は「新様式(令和8・9年度用Excel)」を使用します。
- 中間報告の対象期間は、4月賃上げ開始の施設であっても「令和8年6月および7月の2ヶ月分」となります。
- 収入実績の計算では、継続的賃上げ評価分を除いた点数で計算します。
報告書の作成や数字の集計には、人事給与データからの実績抽出、職種ごとの常勤換算の計算、収入金額の精査など、相当の時間と手間がかかります。
提出期限直前になってからExcelを開いて「様式が違う!」「対象月が分からない!」と慌てることのないよう、早めに資料の準備と集計作業を進めていただくことを強くお勧めいたします。
今回の内容が、皆様の医療機関・施設における実務作業に少しでもお役に立てば幸いです。

