本記事では、令和8年度の診療報酬改定において新設されました「救急外来医学管理料」について、その詳細な構造と施設基準、そしてこの改定の背景にある政策的な意図についてご説明していきたいと思います。

今回の診療報酬改定では、救急医療における評価のあり方が大きく見直されることとなりました。日本の救急医療を支える現場の疲弊や、医療資源の適正な配分が長年の課題となっていましたが、今回の改定はその課題に真正面から切り込むような内容となっています。

なかでも、今回新設された「救急外来医学管理料」は、従来の「夜間休日救急搬送医学管理料」などを単に名称変更しただけのものではありません。過去の制度を発展的に統合させ、医療機関が持つ救急対応機能をより包括的に評価する仕組みへと再編された、非常に重要な項目です。この制度がどのような構造になっており、患者側、そして医療を提供する病院側にどのような影響を与えるのか、順を追って紐解いていきましょう。

動画も配信しておりますので、よろしければご覧ください。

(出典) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html

2つの柱で構成される新しい管理料の全貌

新しい救急外来医学管理料は、対象となる患者さんがどのような経路で病院に来院されたか、すなわち「流入経路」に基づいて、大きく以下の二つの柱で構成されています。

1つ目の柱が「救急搬送医学管理料」です。 こちらは、従来の夜間休日救急搬送医学管理料と同じ路線の延長線上にある評価項目とお考えください。救急車による搬送や、他の医療機関からの緊急の転院搬送など、重症かつ緊急性が高い状態で搬入された患者さんに対して、医療機関が初期加療を行うことを評価するものです。これまでも日本の救急医療の根幹として評価されてきた部分ですが、引き続き重要な柱として位置づけられています。

そして2つ目の柱であり、今回の改定で最も注目すべき大きな変化と言えるのが「夜間休日救急医学管理料」の新設です。 こちらは、夜間や休日に救急車を呼ばず、ご自身やご家族の運転などで自力で受診される、いわゆる「ウォークイン患者」への医学管理を評価する新しい枠組みとなっています。これまで、ウォークインの患者さんに対する評価は「院内トリアージ実施料」などによる非常に限定的なものにとどまっていました。しかし今回の改定では、単なるトリアージ(重症度の選別)という行為そのものに対する評価から、受診対応や医学管理全体に対する包括的な体制の評価へと見直され、点数が付けられることになりました。

 

施設基準に応じた3段階のランク分け(イ・ロ・ハ)

これらの新しい管理料は、救急患者を受け入れている病院であればどこでも一律の点数が算定できる、という単純なものではありません。医療機関が整えている救急対応の体制に応じて、1から3まで(イ・ロ・ハ)の3段階の施設基準ランクに細かく分けられています。

具体的にどのような要件が求められるのか、大きく4つの観点から見ていきましょう。

まずは「機能や実績」です。二次救急や三次救急といった都道府県などからの救急指定をしっかりと受けているか、そして、一定水準以上の救急搬送受け入れ実績を日常的に残しているかといった点が問われます。

次に「職員配置」です。救急医療に専任で当たる医師や看護師が常時配置されているか、緊急事態が発生した際にすぐに緊急手術を行える体制が24時間整っているかなど、マンパワーに関する厳しい基準が設けられています。

3つ目が「設備」です。一般の外来とは別に、救急患者を専門に受け入れる専用の場所(処置室など)が確保されているか、さらにCTやMRIといった高度な画像検査が24時間いつでも実施できる体制になっているかが評価されます。

最後に「地域貢献と危機管理」です。災害時などにおけるBCP(事業継続計画)の策定が行われているか、地域の救急医療の質を向上させるためのメディカルコントロール協議会等へ積極的に参画しているかなど、医療機関としての地域への責任や危機管理能力も問われる形になっています。

なお、救急搬送医学管理料のランク1を届け出ていれば、付随する加算等も原則として1の基準に沿って対応していくことになります。このように、単に患者を診たかどうかではなく、どのような体制で待ち構えているかを総合的にランク付けする仕組みとなっています。

 

具体的な点数の組み立てと強力な加算メニュー

それでは、実際の診療報酬点数がどのように設定されているのか、具体的な数字を見ていきましょう。

まず、救急車で搬送された患者さんの場合(救急搬送医学管理料)です。1の施設基準で届け出ている病院であれば800点2であれば600点3であれば200点となります。 一方、ウォークインで来院した患者さんの場合(夜間休日救急医学管理料)は、1であれば600点2であれば400点3であれば50点という設定になっています。ウォークインであっても、夜間休日救急医学管理料1の病院であれば600点という非常に高い点数が設定されていることがわかります。

さらに、これらの基本点数に加えて強力な加算メニューが用意されています。 一つが「救急外来緊急検査対応加算」です。救急車であってもウォークインであっても、受診したその時間帯に緊急で検査等を行った場合1の病院では300点2の病院では200点を加算することができます。(なお、救急外来緊急検査対応加算に3はありません。)

もう一つが「時間外救急搬送加算」です。こちらは救急車等で搬送された患者さんに対して加算されるもので、受診した日時によって点数が異なります土曜、日曜、祝日の夜間であれば、さらに300点が加算されます。 土曜、日曜、祝日以外の平日夜間については250点、 そして、土日祝の夜間以外の時間帯(例えば休日の日中など)には200点が加算されます。 ここで注意していただきたいのは、この時間外救急搬送加算に関しては、施設基準の1から3で点数が分かれているわけではなく、どの施設基準の病院であっても条件を満たせば一律で上記の点数が加算されるという仕組みになっています。

これらを組み合わせて単純なシミュレーションをしてみましょう。 例えば、救急搬送医学管理料1の届出を行っている大規模な救急病院に、土日祝の夜間に救急車で搬送され、そこで緊急検査を行ったとします。 基本となる救急搬送医学管理料が800点、緊急検査対応加算が300点、そして時間外救急搬送加算(土日祝夜間)が300点となります。これらを合計すると1,400点になります。 診療報酬は1点10円で計算されますので、1,400点は14,000円に相当します。つまり、患者さんが医療保険の自己負担割合(例えば3割負担)に応じて支払う窓口負担金が、数千円規模で上乗せされる計算になり、決して小さくない金額が動くことになります。

 

改定の背景にある3つの深い政策的意図

なぜ、厚生労働省はこのタイミングで救急医療の評価体系をこれほどまでに大きく見直し、高い点数を設定したのでしょうか。その背景には、大きく分けて3つの明確な政策的意図が存在していると言われています。

「見えない待機コスト」への適正評価

救急病院の経営を慢性的に圧迫している要因の一つに、重症患者さんが一人も来ない平和な深夜帯であっても、医師や看護師を配置し、高度な医療機器をいつでも動かせる状態を維持し続けなければならないための「固定費」、いわゆる待機コストの問題があります。 これまでの出来高払い(患者さんが来て治療を行って初めて治療費を請求できるという原則)では、患者さんが来ない日はただひたすらに赤字を生み出す構造になっていました。 今回の新しい管理料も、当然ながら患者さんが受診しなければ算定することはできません。しかし、患者さんが来院した際に算定できる単価を思い切って引き上げることで、患者さんが来なかった時間帯も含めた「24時間体制を維持することに対する基本料金」のような性格を持たせていると考えられます。これにより、地域の救急医療を支える病院の経営の安定化を図るという強い意図が込められているのです。

「ウォークイン軽症患者」への対応労力に対する評価の転換

夜間休日の救急現場において、医療従事者の大きな負担となっているのが、緊急性の低い軽症患者さんのウォークイン受診、いわゆる「コンビニ受診」への対応です。 これまでは、こうした患者さんへの対応は「院内トリアージ実施料」という限定的な評価しかされていませんでした。しかし今回は、単なるトリアージ(振り分け)行為としてではなく、受診対応や医学管理全体に対する包括的な体制そのものを評価する方向へと舵が切られました。結果として、夜間休日救急医学管理料1で600点、2で400点といった高い点数が設定され、現場の労力に報いる形での評価へと転換されたわけです。

コロナ特例の終了と「平時への移行」

新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、医療現場は多大な苦労を強いられました。その際、発熱患者の動線分離や防護体制、初期スクリーニング体制の構築などに対して、院内トリアージ実施料を用いた特例的な評価が行われていました。 コロナ禍を経て得られたこれらの感染対策や初期スクリーニングの知見は、今後も新たな感染症に備えるため、平時であっても必要なインフラであると考えられています。そのため、特例を単純に打ち切って元に戻すのではなく、新しい管理料や加算項目として制度内にしっかりと組み込むことで、日本の救急外来の「標準仕様」を一段階引き上げようとする、ソフトランディングの意図が内包されているとのことです。

 

自己負担増による受診の適正化と病院の受け入れ強化の両立

今回の「救急外来医学管理料」の新設において、絶対に注目しておかなければならない点があります。

それは、患者さんの「自己負担額が圧倒的に高まる」という事実です。 この制度設計の裏には、「受診の適正化」「病院の受け入れ機能の強化」という、一見相反する二つの目的を同時に達成しようとする高度な交通整理の狙いが見え隠れします。

まず患者さん側の視点に立ってみましょう。 夜間に体制がしっかりと整っている大きな病院の救急外来を受診すると、今回新設された高い管理料が上乗せされるため、平日の日中に近所のクリニックを受診する場合と比べて、窓口で支払う金額が跳ね上がります。 すると患者さんは、「こんなに高い金額を払うのであれば、念のための受診はやめて、明日の朝まで待って平日の日中にかかりつけのクリニックを受診しよう」と考えるようになります。つまり、費用負担というハードルを設けることで、患者さん自身に自分の症状の緊急性を判断させる「セルフスクリーニング」を促し、結果的にコンビニ受診を抑制するという手段になっているのです。 もちろん、これによって本当に必要な受診まで控えてしまい、病状が重症化してしまうという懸念も十分にありますが、制度としてはそのような形で設計されています。

 

一方で、病院側の視点に立つと全く異なる景色が見えてきます。

患者さんには「救急車のタクシー的な利用やコンビニ受診を控えてください」とアナウンスしているにもかかわらず、同じ2026年度(令和8年度)の診療報酬改定において、病院側には「救急搬送の受け入れ件数そのものを高く評価する」という仕組みが数多く導入されています。 例えば、「重症度、医療・看護必要度」における「救急患者応需係数」の導入や、急性期病院の施設基準に救急搬送件数の要件が直接組み込まれた新しい入院料の新設などです。 つまり病院側としては、経営を維持・発展させるために、救急車の受け入れ件数はしっかりと確保したいという強いインセンティブが働く状況になっています。

病院には「今まで以上に救急要請を断らずに受け入れなさい」と促しつつ、患者さんには「本当に必要な時以外は受診を控えなさい」と求める。この一見相反する仕組みは一体何を意味しているのでしょうか。

私は、これこそが「病院が本当に診るべき重症度の高い患者に、限られた医療資源を集中させていくためのしたたかな戦略」であると考えています。 受診ハードルを設定して緊急性の低い軽症患者の夜間・休日受診を相対的に減らし、現場の負担を和らげる。そうして医師の労力や時間、ベッドの空きに生まれた「余力」を、一刻を争う重症患者や救急車の受け入れに100%注ぎ込んでいく。つまり、夜間・休日に診るべき患者さんを厳選し、医療資源の再配分を行うための計算された仕組みと言えるのではないでしょうか。

 

おわりに

ここまで素晴らしい制度設計のように語ってきましたが、もちろん手放しで喜べることばかりではありません。 このような方向に進んでいくと、厳しい施設基準を満たせない病院や、軽症患者の受け入れを中心としていた病院は経営が立ち行かなくなり、結果として「救急外来を持つ病院そのものが地域から減っていく」という可能性も十分に考えられます。限られた大病院への一極集中が進むことで、また違った視点からの地域医療の課題や問題が見えてくる気もしています。

本記事は、新設された「救急外来医学管理料」について、点数や施設基準といった表面的な部分だけでなく、その背景にある「受診の適正化」や「救急受け入れ機能の強化」、「医療資源の再配分」といった深い制度設計の意図まで踏み込んで考察してみました。

点数改定のニュースを見ると、どうしても「病院が儲かるのか」「私たちの支払いがいくら増えるのか」という点ばかりに目が行きがちですが、その背景にある国の誘導の意図まで考えておくことは、今後の日本の医療の行方を見守る上で非常に重要な視点かと思います。

本記事が皆様の病院経営の一助となれば幸いです。