はじめに

本記事では、公益社団法人全国自治体病院協議会から公表された「令和7年度決算状況調査」の速報値について、情報共有と解説をさせていただきます。

今回取り上げるデータは、令和8年7月16日付けで公開された集計結果です。全国の自治体病院が直面している極めて厳しい経営環境や、数字の表面だけでは見えてこない本質的な課題が浮き彫りとなっています。日頃から医療経営に携わっている病院関係者の皆様はもちろんのこと、地域医療の維持や自治体財政に関わる多くの方々にとっても、今後の方向性を考えるうえで極めて重要な指標となります。

最初に結論からお伝えしておきますと、令和7年度は「経常収支」で見ると前年度よりマイナス幅が縮小し、数字の上では改善しています。ただし、それは補助金等が入ったことによる影響が大きく、純粋な本業の収支、つまり「医業収支」で見ると、むしろ悪化しているという結果になっています。また、病床規模によっては、補助金が入っても改善が見られなかったところもあります。

この「経常収支は改善、医業収支は悪化」という二つの側面を押さえておくことが、今回の資料を読むうえでとても大切になります。なぜ見かけ上の数値と現場の実態に乖離が生じているのか、整理してお伝えしていきたいと思います。

動画も配信しておりますので、ぜひご覧ください。

【出典】会員病院の令和7年度決算状況調査の結果(速報)概要

https://www.jmha.or.jp/contentsdata/keiei/20260716_r7kessan_setumei.pdf

 

令和7年度 自治体病院決算状況調査の全体概要

まずは調査の概要と母集団のデータについて確認しておきます。

全国自治体病院協議会は、都道府県立や市町村立など、自治体が設置する病院を中心に構成されている団体です。自治体病院は、救急医療やへき地医療、周産期医療、感染症対応など、民間では採算をとるのが難しい不採算医療を担う役割があります。そのため、毎年の決算状況は地域医療の持続可能性を考える指標となります。

会員835病院のうち、回答数は543病院、有効回答数は485病院となっております。回収率としても高く、会員病院全体で見ると有効回答ベースでおよそ58%のデータです。全病院を網羅したものではありませんが、全国の自治体病院における経営実態の傾向をつかむには十分な規模と信頼性を持った統計データであると言えます。

なお、今回の数値はあくまでも速報値ですので、今後の確定値で多少変動する可能性がある点は、頭の片隅に置いておいていただければと思います。

 

赤字病院の割合と改善傾向の裏側

今回の調査結果において、最初に注目されるのが「経常損失を生じた病院の割合」です。

集計結果によりますと、令和7年度において経常損失(赤字)を計上した会員病院の割合は83%という結果になりました。前年度の令和6年度と比較すると、赤字病院の割合は6%減少しています。

この「6%の減少」という数字だけを見れば改善傾向にありますが、8割を超える病院が赤字であるという数字自体は非常に厳しいものです。裏を返せば、回答病院のおよそ6病院に5病院(83%)は依然として赤字を抱えています。改善の幅よりも83%という水準の高さに目を向けておく必要があります。

さらに注意していただきたいのが、これは「経常損失」での話である点です。経常損失は補助金や繰入金なども含めた収支です。「赤字が減った=経営が良くなった」と単純に受け取ってしまうと実態を見誤ってしまいます。この点は次の医業収支との比較でより明確になります。

 

医業収支の状況:本業の赤字はさらに増大

病院の経営体力や実態を正確に把握するためには、「医業収支」と「経常収支」を切り分けて見ることが不可欠です。

医業収支とは、補助金や繰出金といった外部からの公的支援を除き、純粋に病院本来の業務である医療の提供だけで得た収入と費用を比較した収支状況のことです。いわば、病院という事業そのものの稼ぐ力や採算性を示す指標です。

自治体病院の場合、不採算医療の負担を踏まえて自治体一般会計から「繰入金」が入っています。

そのため、繰入金や補助金を含めた「経常収支」と、それらを除いた「医業収支」の両方を見ていくことが大切になります。

今回の調査における医業収支を前年度と比較すると、純粋な医業収益(収入)自体は患者数の回復等により増加していました。

しかし、一方の費用に関しましても大きく増加してしまいました。

その結果、医業だけの収支といたしましては、マイナス幅が増大、つまり本業の赤字が悪化していたという状況になっています。

収入が増えたにもかかわらず費用が増大した背景には、急激な物価高騰による材料費や光熱水費の上昇、そして賃上げに伴う人件費の増加といった構造的なコスト増があります。

ベースアップ評価料などの対応はとられているものの、収益の伸びが費用の伸びに追いついていない構図が表れています。

 

経常収支の状況と見かけ上の改善要因

本業の医業収支が悪化しているにもかかわらず、なぜ経常赤字病院の割合が減少し、経常収支が改善したのでしょうか。そのカラクリは補助金の存在にあります。

経常収支は、医業収支に医業外収益や費用を加えたものです。

今回の調査結果を見ると、経常収益は前年度比4.6%増、経常費用は2.8%増となりました。収益の伸び率が費用の伸び率を上回ったことにより、最終的な経常収支のマイナス幅は縮小し、改善したという計算になります。

経常収益が伸びた最大の要因は「補助金」です。高市助成をはじめとする、厳しい経営難に陥っている病院に対する各種補助金や交付金が国や自治体から投入されました。

状況を整理すると、以下のようになります。

  • 医業収支(純粋な医業のみ):収益増も費用が上回り、マイナス拡大(悪化):増収減益
  • 経常収支(補助金等を含む):収益伸び率(4.6%増)が費用(2.8%増)を上回り、マイナス縮小(改善)

つまり、経常収支の改善は、本業そのものが良くなったというよりも補助金などの一時的な支援によって支えられた部分が大きいと言えます。補助金が縮小すれば、本業の赤字がそのまま表面化するリスクを抱えています。

 

病床規模別の経常損失割合:200床以上300床未満の衝撃的な100%赤字

今回の調査資料の中で、私自身が特に注目すべきだと感じたのが「病床規模別に見た経常損失病院の割合」です。

令和7年度に経常損失を生じた割合を病床規模別に見ると、その他の規模では補助金等により改善が見られたのに対し、「200床以上300床未満」の病院様は改善がなく、令和6年度・7年度ともに回答病院様の「100%」が経常損失という衝撃的な結果になりました。

全体としては赤字割合が下がっている中で、この規模帯だけは2年連続で100%のまま横ばいです。補助金が入ってもなお回答病院のすべてが赤字であるというのは非常に重い数字です。

200床以上300床未満の中規模病院は、地域の中核として急性期医療や救急を担いつつも、大規模病院ほどのスケールメリットが得られにくい階層です。

大病院のような症例集中による効率化が得られにくい一方で、人員配置や設備などの固定費負担が高くなりやすい傾向があります。さらに、200床未満の小規模病院のように回復期や地域包括ケア病棟へ機動的に病床転換するのも難しく、構造的な挟間に立たされています。

この規模帯に当てはまる病院様は、特有の課題を抱えている可能性があるという視点で自院の数字を見直してみる必要があります。

 

病床規模別の経営状況と1病院当たり平均値の活用

今回の調査資料には、病床規模別の経営状況について、1病院当たりの平均値をまとめた一覧表も参考までに掲載されていました。

同じくらいの規模の病院の平均値と自院の数値を比較してみると、自院の立ち位置や課題が見えてくることも多いかと思います。収益は平均並みなのに費用が高い、あるいは費用は抑えられているが収益が伸びていないなど、差がある部分を確認することで改善の手がかりにつながります。

また、院内で経営状況を説明する際の客観的な比較資料としても、こうした全国平均値は非常に使いやすいツールになります。地域性や機能の違いを踏まえつつ、ぜひ一度ご覧になっていただければと思います。

 

医療経営者が今すぐ取り組むべき今後の課題と視点

今回の結果から、私たちが受け止めるべき今後の視点について3つのポイントで整理しておきます。

第一に、補助金効果の剥落リスクへの備えです。令和7年度の経常収支の改善は公的支援による影響が強いため、支援があるうちに本業である医業収支の赤字を縮小させる経営改善に取り組むことが不可欠です。

第二に、中規模病院における機能再編と地域連携の推進です。「200床以上300床未満の100%赤字」という現実を踏まえ、地域包括医療病棟等への病床転換や、近隣医療機関との役割分担・再編統合など、構造改革への着手が求められます。

第三に、緻密なコスト管理と医業収益の適正化です。インフレ下での共同購入やエネルギー効率化を推進すると同時に、施設基準や加算を漏れなく取得するなど、医業収支を改善する地道な取り組みが重要となります。

 

まとめ

全国自治体病院協議会様が公表された「令和7年度決算状況調査」の速報値について解説させていただきました。

重要なポイントを改めて振り返っておきます。

  • 経常損失を生じた病院の割合は83%で、前年度より6%減少 
  • 医業収支は、費用増加が収益増加を上回り悪化 
  • 経常収支は、補助金等の影響で収益伸び率が上回り改善
  • 200床以上300床未満の病院は、令和6年度・7年度ともに100%が経常損失

数字の上では改善と見えても、本業の医業収支は悪化しており楽観できません。令和8年度の診療報酬改定も見据え、経常収支と医業収支の両面から自院の現状を確認してみていただければと思います。

本記事の情報が皆様の病院経営の参考になれば幸いです。